素潜り旬

アステロイド・シティの素潜り旬のレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
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大阪ステーションシティシネマで『アステロイドホテル』を。『ブレイキング・バッド』のブライアン・クランストンが出るだなんて知らなかったし、パンフレットを読んで気づいたから驚いた。そらそうだ彼はいつまでもスキンヘッドではないわけで。他にも昨日観た『天才マックスの世界』の主演ジェイソン・シュワルツマンが25年の時を経てもう一度主演として出演していたのだが、これもパンフレットを読んで気づいた。まさかこんなアル・パチーノみたいになっているだなんて(それこそマックスの劇中劇『セルピコだ!)。彼の役は戦場カメラマンで多くの死と向き合っているが、妻の死を子どもたちに伝えられずにいる。それは「タイミングがなかった」からだと弁明するが、「タイミングが合うことなんてない」と義父に言われてしまう。死にまつわることに適切なタイミングを見つけることなど難しいことなんて戦場にいたらわかっているはずなのに…とも思ったが、死を適切なタイミングで発表するのが戦場カメラマンなのかもしれないとも思う。ウェス・アンダーソンの世界はさらに複雑になっていて、アステロイド・シティという架空の街を舞台にした演劇(の拡張版)、その制作過程、そのドキュメンタリー映像をTVショーで流している、とかなりの入れ子になっているのに、スカーレット・ヨハンソンは俳優役としてアステロイド・シティに登場して芝居の稽古に励んでいる。ということは、芝居の稽古(アル中役)をしている俳優(アステロイド・シティ)の役をしている俳優(制作過程)の役をしているスカーレット・ヨハンソンとなり、もうすごいことになっている。三役。他のアステロイド・シティのほうに出演している俳優たちも二役やっていることになるし、と書いていてなんて好みの映画なんだろうと楽しくなってくる。こういう入れ子の構造になっている映画だとコーエン兄弟の『ヘイル・シーザー』も良い。とはいえウェス・アンダーソンのほうが何倍も複雑。今作のウェス・アンダーソンもデザイン的だし、もう隠せないほど文学的(パンフレットでウェス・アンダーソンは「詩的」だと言っていたが、これは「詩」よりも「文学」だと思う)で、それがアメリカ映画のオマージュによって薄れることもなく表出しているのが、彼の作家性なのだと思う。
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