Hiroki

アステロイド・シティのHirokiのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
4.0
なぜか何もやる気が起きずにアニメやドラマの映画化作品でお茶を濁し続けてきていましたが、11月も中旬ということでそろそろやる気出します!

9月に4日連続Netflixで短中編作品が配信になったウェス・アンダーソン。
『ファンタスティック Mr.FOX』でアニメ化した作家ロアルド・ダールの原作を今度は実写化。その中のひとつ『奇才ヘンリー・シュガーの物語』はベネディクト・カンバーバッチを主演に先日のベネツィアでもプレミア公開されていた。
このシリーズ(4作品)の面白い所が第4の壁を破る演出と舞台劇のようなセット転換。そしてレイフ・ファインズやルパート・フレンドなど同じ役者を使いながら別の役を演じている点。さながら劇団の公演のように。
まー4つ観ても1つの長編映画より短いし、ウェス・アンダーソンのエッセンスと彼のロアルド・ダールへの愛が詰まりまくった作品群なのでNetflixに入ってる人はぜひ観てほしい。

さて今作品は2023カンヌのコンペ作品。
カンヌコンペ作で日本作品以外では最速の劇場公開。
さすが映画カルトの教祖ウェス・アンダーソンという感じ。

興収はこの人の場合はあまり意味をなさないので割愛。
まーヒットはしてないです。
ウェス・アンダーソンなので。

まず今回は近年の難解だと言われる彼の作品群でも最高度に物語が難解だったと思う。
モノクロで語られる“ある舞台の制作過程に密着したテレビ番組”と、カラーで描かれる“その舞台(劇中劇)”の入れ子構造。
そしてモノクロ部分では“テレビ番組の裏側”も登場する。
さらに劇中劇の中に喜劇女優役の(スカーレット・ヨハンソン)もいて、台本を読んだりしてるからさらにややこしい。
オープニングから怒涛の説明があってここで置いていかれると、そこで全てが終了します。

正直『グランド・ブダペスト・ホテル』くらいからウェス・アンダーソンはみんなに理解してもらう事なんて放棄して(いや元々そんな事は考えてなさそうだけど)、自らの愛をぶつけ続けている。
『グランド・ブダペスト・ホテル』ではシュテファン・ツヴァイクや世紀末ウィーンへの愛を、『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』では雑誌ニューヨーカー&創始者ハロルド・ロスとフランス&フランス映画への愛を惜しげもなくぶつけていた。
そして今作では50年代のアメリカ演劇界(映画界)に対する愛をぶつけている。

あと彼のお得意の皮肉として、いわゆる“パクス・アメリカーナ”と呼ばれる覇権全盛の50年代アメリカのその裏では、冷戦構造やマッカーシズムによる赤狩り(共産主義の追放)など確実に影を落としていた。
ネバダ州で繰り返される核実験。
黄金時代の中で感じる捻れや歪み。
サンドベージュの砂漠とターコイズの青空に現れるキノコ雲はそんなアメリカを示唆していた。
多国籍・無国籍な世界を作りつづけているウェス・アンダーソンには珍しいアメリカを意識させる物語。
そして終盤の「目覚めたいのなら眠れ」と繰り返し発せられるセリフ。当事者と傍観者の対比から抜け出させるためのメッセージ。
強烈。

キャスト的にはやはり常連組で主演のジェイソン・シュワルツマンが素晴らしい。
というかこのメンツでジェイソン・シュワルツマンを主演にするのはウェス・アンダーソンだけだと思う。
しかしウェス・アンダーソン作品特有の我を出さずに与えられた役を淡々とこなすという任務を120%体現している人物こそジェイソン・シュワルツマン。やはり前作のベニチオ・デル・トロではオーラがありすぎてこうはいかなかった。
明らかに天才マックスが大人になった姿を投影していたのもファンとしてはとても嬉しかったし。
ただやはり不満なのは初期から出演し続けていたビル・マーレイがいない事。トム・ハンクスが演じていたスタンリーは明らかにビル・マーレイの役だった。やはりスキャンダルが響いたか...残念...(と思っていたら実はコロナ感染で降板。スティーブ・カレルが演じていたモーテル支配人役で出演予定だったらしい。)
あと処女作の時から戦友だったオーウェン・ウィルソンがいないのも悲しかった。なぜ...

スカーレット・ヨハンソンの「演じたことはあるけど、経験がないの。」というセリフがやけに頭から離れない。

2023-60
Hiroki

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