Ricola

アステロイド・シティのRicolaのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
3.2
相変わらず色彩豊かだが統一感のあるセットや小道具やキャラクターは素敵だが、最近のウェス・アンダーソン作品は迷走しているように感じてしまう。

優しくてシュールなおとぎ話といった物語のスタイルは変わらないのだが、単刀直入に言うと、監督が何をしたいのかわからないのだ。


まずこの『アステロイド・シティ』は、舞台作品であることが冒頭で示される。そのことを知った上で、私たちは『アステロイド・シティ』という物語を見つめていくのだが、ちょいちょい舞台裏や製作過程の裏話などが挿入される。俳優の才能が認められて急遽代役から採用されたこと、脚本家と俳優が関係を持っていたことなどが明かされるのだが、それがストーリーの展開上で別に触れられることはない。そのため、なぜそういった物語の裏側を入れてきたかの意図が読めない。

また、前作『フレンチ・ディスパッチ』で失われていたような鈍重なノリは戻ってきたが、あまりにカオスである。登場人物たちは常にバラバラなのだ。
皆で1つの目的を達成するというより、目撃すること。つまりは皆で秘密を抱えるようなことであるはずだが、その後彼らのなかで何組かの関係性に変化が訪れる。親子それぞれの人間関係や交流が描かれてはいるものの、彼らが偶然にも共有してしまった秘密が彼らをどうこうするわけでもない。ただ、同じ時を過ごして仲が良くなったというだけのようにしか感じられない。たしかに、その出来事が起きた前と後に違いは生じているが、出来事がきっかけというわけでもないようなのだ。

物語の筋書きというより、演劇の舞台裏のほうが作品作りを左右しているということを表すかのように、公演中の裏側を見せたり俳優たちの過去をチラつかせてくる。しかしだからといって、それが『アステロイド・シティ』という作品をどう動かしているのかを明示するわけでもないので、色々と中途半端に感じてしまった。
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