ぼさー

僕の一番好きだった人のぼさーのレビュー・感想・評価

僕の一番好きだった人(2021年製作の映画)
4.1
恋愛において不器用なコミュニケーションを重ねながらどういう関係になりたいのかを互いに擦り合わせできずにいる二人の二晩の物語。

あらすじを読まずにタイトルとジャケ見で鑑賞。『僕の〜』とあるので男性が登場するのかと思いきや女性二人しか登場しない同性恋愛の物語だった。

自分も若かりし頃は悠(ゆう)のように卑屈で恐る恐るコミュニケーションを取っていたなぁと共感できる内容だった。女性カップルのみならず性別問わず共感できる普遍性のあるテーマだったように感じた。

そして美しい映像が涼しげでありながら緊迫感のあるシリアスなシーンが続き、飽きない作りになっている。

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叶絵(かなえ)は絵を描くことで相手に気持ちを伝えたいタイプのように描かれる。好きだとか可愛いだとかを言葉にするのは野暮だと考えているような節があって、そのことが悠を不安にさせている。
幼稚さや未熟さによって関係を深め合えず、うまくコミュニケーションが取れない二人を演じる主演の二人の演技が素晴らしく、特に悠役の平野鈴(ひらのれい)さんの演技は息を呑むような緊迫感と美しさがあった。

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上村奈帆監督、悠役で主演の平野鈴(ひらのれい)さんの舞台挨拶付き上映を鑑賞。

来場者との質疑応答で進行するトークイベントだった。

なので僕も質問させていただいた。
質問の際に平野さんが僕の半袖シャツが可愛いと言ってくれて嬉しかった。
他の方が深い考察の下で素晴らしい質問をするなか「脚本の執筆や演技の上でどなたかモデルにした人はいるのか?」という素朴な質問しかできなかったが、上村監督と平野さんが誠実に回答してくれて嬉しかった。お二人の回答はモデルは特におらず自分自身から生み出された人物像ということだった。
たしかに誰しもが過去に同様の恋愛模様を経験したことあるだろうから自分自身から生み出されたものだというのも腑に落ちた。上村監督も平野さんもトークの様子からして叶絵や悠のような未熟さはなく擦り合わせできる人物であったので、恐らく未熟だった若かりし頃の体験みたいなものを抽出して物語を作り上げたのだろう。その技量にとても感心した。

『僕の一番好きだった〜』と過去形にしていることについて会場からも平野さんからも質問があがった。上村監督は恋愛が交差する模様を描きたかったと語っていて、交差するというのは交差した後に離れていくことでもあり、その様子を描こうと思っていたからこそ自然と過去形のタイトルになったというように語っていた。
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