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ドーナツキングのsomaddesignのレビュー・感想・評価

ドーナツキング(2020年製作の映画)
4.0
ドーナツキングの波瀾万丈すぎる人生、
ドーナツ状の人生と甘くない現実。

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アメリカンドリームを掴んだ男は、いかにしてドーナツ店経営に至ったか。カンボジア内戦でアメリカへ移民として渡った無一文の青年が、「ドーナツキング」と呼ばれるまでの半生を追ったドキュメンタリー。大手チェーン店と個人経営店との競合から最新ドーナツ事情、難民問題や人種差別の壁など数々の困難を乗り越えてきた男の半生を通じて、移民国家アメリカの姿も見えてくる。

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事実は小説よりも奇なり。カルフォルニアの個人経営のドーナツ屋さんの95%がカンボジア系だという。そのパイオニアとなったテッド・ノイの物語。
映画見てる間中、口の中が甘くなる。
一生分のドーナツを見た気がするし、SNS世代以降の「映えるドーナツ」の激甘な見た目がイチイチ強烈。美味しそうだけど、1個で1日分くらいのカロリーありそう。


映画やアニメでよく見かける、ドーナツの箱がピンク色な理由がようやく分かった。てっきり自分の知らない有名チェーン店がアメリカにあって、それを想起させるカラーなのかと思ってたら、全然しょうもない理由で笑う。しょうもない理由でも、ああいう工夫が一般化されることで、多くのカンボジア系移民の商売のノウハウになって沢山の人の礎になったかと思うと、すごいこっちゃ。(たまに工夫が行き過ぎて、ドン引くレベルのこともしてるけど)

テッド・ノイの驚きの経歴。80年代のカンボジアの争乱からアメリカに難民として渡るまで。ドーナツと出会って身を立てていく過程の面白さが異常。まさにアメリカンドリーム!と感動しちゃう。転じて、ほんの数十年前までのアメリカと現代を比べて、移民/難民への寛容さの違いが浮き彫りになる。他民族・他人種国家で、アメリカ人をアメリカ人と定義するものは何なのか?

テッド・ノイの柔和な佇まいと裏腹な、暗い一面もちゃんと描いてる。ドーナツキングとしての栄光と没落。映画後半部が没落してく一方なので、見ていて辛い。や、映画序盤から後半の展開を匂わされてたし、テッド・ノイ自身の自業自得な部分はあるにしろ、人の堕ちてく姿を見るのはしんどい。途中からしくじり先生を見る気分でいないと、巻き込まれて不幸になった人達の分も乗っかって、心の負債に押し潰されそう。

監督は中国系アメリカ人の女性、アリス・グーで、今作が長編デビュー作。生まれたばかりの息子のためにベビーシッターを雇ったら、世間話からカンボジア系とドーナツショップの話を知り、さまざま記事を調べるうちにテッド・ノイに行き着いたそう。
製作費がないので、とりあえず自分で工面してカメラも借り物で撮り始めることに(テッド・ノイの年齢を考えると、資金調達に時間をかけられなかったとも)。
のちにサウス・バイ・サウスウエスト映画祭の上映でスコット・フリー・プロダクション(リドリー・スコットの会社)に興味を持ってもらえ、リドリー・スコット自身も今作を甚く気に入り製作に名を連ねることになる。今作の誕生から上映までもまたアメリカンドリーム的で熱い。

なんのかんのあっても、たぶん無反省なドーナツキングの笑顔に癒される。
人間、笑顔でいるって如何に大切かと。ついついあの笑顔に絆されちゃうのもわかるわー。

73本目
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