ボギーパパ

イノセンツのボギーパパのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
4.8
劇場2023-56 熊本P

北欧のスリラー、ホラーは結構好き。

『ぼくのエリ 200歳の少女』のなんとも言えない無機質な風情に、生々しさと血の匂いを載せてくる感じ。

『ボーダー 二つの世界』や『LAMB』のようにいったい何を観せられているのだろうと言った浮遊感。

また、厳しい冬の描写も多く、静謐な雰囲気に狂気を載せる一定の様式美というか、お約束的なカタチにも魅せられる。
作品の舞台になるだけでも、キリスト教化が比較的に進まなかった事実を背景にしたものや、ルーン文字の妖しさ、異質さから醸し出される不穏さが描かれており好き。

さて、本作。期待に違わぬ傑作と言って良いでしょう。
予告編を何度か見ており、かなり期待値が上がっていたが、その値を軽く超えてきた。

話の要諦は、子どもの不安定で抑圧された精神に宿る超自然的「パワー」による闘い。

サイコキネシス、テレパシー、
と、まるでバヒル2世みたいなパワーを偶然身につけた、ありとあらゆる場面で不安定で被抑圧的境遇にある子どもたちが主人公。
無垢さがもたらす恐怖!が柱となる。

①イーダの場合・・・姉のアナは自閉症。両親は姉を中心に物事を考えざるを得ないため、かなり鬱屈した精神状態。意地悪してそれを少しだけ晴らすのが日常か、、、
②アナの場合・・・イーダの姉。原因はわからぬが自閉症と診断されているため自らの意思を言葉にして伝えられない。
③ベンジャミンの場合、、、本作において彼の状態、背景の説明が若干少ないため今一つ掴みきれないが、おそらく移民であり、差別にさらされている。家庭環境も劣悪で逃げ場がない。
④アイーシャの場合・・・ベン同様北欧白人社会では異質であり、更に白斑を親が苦としてか、ともだちもいないのか、一人遊びを常とする

この4人の置かれた被抑圧的環境がストーリーの軸。いずれの子も家庭環境や社会との関わりにオブストラクルを抱えており非常に不安定。ポスターの表現も本当に不安定。

この子達が、抑圧された環境下に自らが持つ極めて不安定な「パワー」に気づき、覚醒し、そして事を起こし、周囲を含め巻き込み巻き込まれて、(局地的ではあるが)惨事を引き起こす話。

無垢な残酷さ(に対する邦題:イノセンツ)や、繋がりたいという欲求や、自らの環境を憎み破壊したいという衝動が因子となり、そしてそれが増幅され暴発する。

本作、見えない「パワー」のため諸々不幸なことが起こるが、その描き方が実に素晴らしい。静謐にして衝撃的、しかも印象的であり更には痛覚までも伝わる現実感まである。音のパワーも侮り難い、、、

これまで、この見えない「パワー」を題材とした他の映画は、見えないが故にその衝撃を表現するために派手な演出や痕跡を残しがちで、そちらばかりを目立たせるようにしてきたものが多い、

一方、本作はビームが出るわけでもなし、斬撃が飛ぶわけでもなし、爆発が起こるわけでもなし、派手な演出が全くと言って良いほどない。しかし実に的確に、実感を持って伝わってくる。ある意味すごく衝撃的。

VFXなどの表現も最低限施すに過ぎず、抑制的描写で痛み、衝撃を付与してくるのが素晴らしい。もう絶賛!

時折抜かれる建物や、その階段(階段は冒頭のある衝撃的な事件の舞台、そしてそれが伏線となり後半に大きく影響する)、窓など、いかにも北欧の無機質なカットに、子どもたちの体温が伝わってくるような精神不安の表現が載せてこられる。これは『ぼくのエリ』にも通ずるところで、違和感からの不穏さが作品全体に一本筋を通している。
また、そこに載せるBGMや効果音が素晴らしい!

そしてパワーは増幅し、いよいよ対決となったところのシーンでは、更に「共鳴」「共振」といったキーワードが加わり、怒涛ながらも静謐なラストのカタルシスにつながる。単なるサイキックバトルではないところが素晴らしい!

なんと素晴らしい脚本、演出、そして子供達の素晴らしい演技なのだろうか!
これは今のところ私の今年ベスト作品となりました。ブラボー👏
ボギーパパ

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