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イノセンツのBitdemonzのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
4.3
監督自身も語っているように大友克洋原作『童夢』が作品の着想のひとつだということは一読した事があればその要素が確実に判るレベルで散りばめられており、前情報なしでの初見で若干面食らったが、逆に『童夢』を期待して観に行くと、あくまでもその要素が作品を演出する上でのひとつであり、“大人”の介在しない世界で展開される不気味で静かな波紋を“見守る”内容はその期待を裏切りかねない。

大人によって形作られた“社会”とそこで生きるために造られた秩序や道徳とは無縁の存在となる“無垢”なる子どもたちには、あくまでも人間社会における善も悪も並列にあり、その事象が“自身にとってどうなのか”だけが行動原理であるという、極端な言い方をすれば“まだ人ではない”存在。この物語はそうした“社会”と地続きであまりに身近にあるカオス、子どもと子どもたちだけのコミュニティについてを描く中で先の着想と結びついており、似ているようだが全く同じではない。

しかしながら、超能力というエッセンスを加えたことにより、その“身近なカオス”をより異質で不気味なものとして際立たせている点(加えて認知出来る世界とは別の「何か」との距離感にも通ずる親和性)ではとても興味深く、常識というものから掛け離れた世界に生き、独自の思考で行動する“子ども”とは一体何(者)なのかについて考えさせられる。
……確か押井守の『イノセンス』でも同じ様な話をしていたと記憶している。

善と悪、また混沌もそれは“人”が勝手に作り上げた概念で、自然界からすれば全てが並列であり、むしろ大人と呼ばれる我々の方が本来では異質なものではないだろうかという逆説的な問いのようなものも感じる。

ポスターなどにあるキービジュアル然り、幾つかのシーンで示唆的に映し出される逆さまのシーン、そしてエンドロールでの上から下へと降りてくるクレジットに、そうした意図を重ねてしまったが、自身の幼少期の記憶へと辿る入口へと“堕ちていく”錯覚もあり、デビッド・フィンチャー『セブン』でも同様の手法が用いられていたが(あれはまた違う意図があるとされる)こちらもまた秀逸である。



……とはいえ、この“逆さま”のビジュアルについては詳しく知りたいので、他に素晴らしい解釈をお持ちの方は是非とも教えて頂きたいところです。

団地を背にして池の前に佇む引きのショットにはシビれるし、大きく主張しないのにジワジワ不穏を煽る音楽も良く、先に挙げた「派手さ」を求めると肩透かしを食らいますが、じんわりと浸るスリラーもまた味わい深いのです。

この作品はパンフレットもとてもカッコよくて、キービジュアルのイメージを上手く取り入れた縦長のデザイン(ちょっと読みにくいですが)は素晴らしい!
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