TsuyoshiNomoto

イノセンツのTsuyoshiNomotoのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
4.3
ホラー映画の体であるが、ジャッジメント、あるいは民事主義の裁判制度についての映画だと思った。
そして、「人間は生まれながらに、残酷で暴力的な生き物か?」というテーマ――子供の姿を通してそれを描く手法は、20世紀より連綿と続く――の系譜にありながら、その二元論的な問いを解体する「個別性や社会構造と共に判断して行くべきだ」という21世紀的なムードに、さらに問いを投げかける映画。(だと思った。)

愛情の裏側で殺意が芽生える、というある種、普遍的なメカニズムによって恐ろしいことが起こるわけだが、悪いことにも使える力を、無邪気に接して、育て上げた主人公イーダに罪はあるかっていう部分はかなり白黒付けづらい。単に遊んでいたら、結果的に少年の力を増幅させてしまうことになったとも言えるから。

この複雑な構造ににどう向き合う?
今のところ悪い方に力を使ったやつがいたら、皆でソイツを裁こうというシステムが社会全体でとられているわけだが、それもけっこう残酷でおぞましいよねって、ラストシークエンスは、私たちにちょっと考えさせるようでもあった。

暴力の芽を摘むこと、あるいは若葉の段階でその性質をジャッジすることなんてもはや無理なのでは?それでもジャッジしないと大変なことになるし、かといって、現行の民主主義/死刑制度を続けるなら(社会は、理想として、罪を犯す人がいないように、人を包摂するものでなければならないのに)私たちがやってること、ここ数世紀の間で何も変わってませんよ、という感じ。あの少年はもちろん悪だし、裁かれるべきというのは大前提。

大人が子供たちに接する時間が少ない。そこに問題があることも、描かれている。皆が自分が生きるのに必死で、親も子供も2人以上の人物が肩を寄せ合ってハグし合うシーンは、この映画に恐らくは1つもない。愛情の不足って人間に1番あってはならないものだって、間接的に伝えてる感じもした。
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