むぎちゃ

イノセンツのむぎちゃのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
4.0
サイキックは無垢に寄り添う


北欧+サイキックスリラーと聞いて真っ先にテルマを想像したが、まさかテルマの脚本を手掛けた人が監督だったとは。
どうやら個人的に、この北欧スリラーに共通する「ド派手な展開はなく全体的に凍えるような冷たさが漂う」世界観が好みで、今作も完全にハマった。

大友克洋作品はAKIRAしか読んだことがないので、童夢のオマージュ云々はわからず。
基本的にはオマージュ元はどうでもいいと思っちゃうタイプだが、童夢は見たくなった。というか、絶対知っていると倍以上楽しめると思う。

さて、今作では「子どもとは善悪の概念に当てはまらず」を徹底している印象。
アイシャを殺しても飛行機のおもちゃひとつで夢中になるベンの無邪気さが忘れられない。

タイトルである「無垢」こそが恐怖の根源であり、大人には立ち入ることの出来ない未知の領域を生む。
ラストの静かなサイキックバトルでは異変に気づいた「子どもたちだけ」がその様子を伺う。大人は巻き上がる風も揺らぐ水面も、凹んだブランコの支柱にも気付かない。

ベンの最期を見届けるとまた子どもたちは部屋へと消えていく。
無垢の世界は静かに深々と広がっている。

当事者であり真実を知る子どもであるイーダは静かに泣く。
そう、大人には、"秘密"

世界をひっくり返したようなエンドクレジットも憎い作りで好き。大人には触れられない世界を端的に表しているように感じる。

終始静かに淡々と、しかし全体を覆う恐怖と嫌悪感、そして少しばかりの希望を望んで余韻に浸れるとても良い塩梅の映画。
むぎちゃ

むぎちゃ