モンティニーの狼男爵

イノセンツのモンティニーの狼男爵のレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
3.7
小さい頃、日本海に程近い所に住んでいた。
海水浴場とかではない、当たり前にある浜で、色んな漂流物が打ち上げられていた。死んだ青い蟹や、生えるように貝が付いたブイや、韓国語のラベルが貼られた硝子瓶があった。分かる通り綺麗な浜ではなかった。
僕はそこから硝子で出来たものを選び、遠くの石に叩きつけていた。パァン!という破裂音と飛び散る破片が波に飲み込まれていく。面白かった、単純に。

『イノセンツ』
無垢な子供たちのサイキックスリラー。
本作の監督が脚本も手がけた『テルマ』を忘れらない男爵です。
子供たちの、子供たちのみによる、大人も含めた世界のためのお話。
無垢な感情の暴走と言うけれど、無垢な感情とは何を指すのか。世間を法律を他者を知らない感情を無垢と言うなら、そりゃあ気持ち良くて辛いだろうよ。

虫は理由なく踏み潰していたし、他人に対しての配慮なんか考えてもいなかった。常識と建設的なことだと思われること、を言われると吐き気がしていた。
今考えると恐ろしいことをしていた。鋭い硝子片が右往左往していたことになる。なぜ波に飲まれる硝子片が面白かったのか。
それにもし飽きていたら、僕の好奇心はきっと「生きた反応のあるもの」に向けられてもおかしくなかったんじゃないか。

映像の仕組みや子役の演技や伏線の張り方は面白かったし、名前の付かない欲求に近い一次感情の揺れと進行の緩やかさが丁寧だと感じた。ただ物語的に、予想のつける分かり易さがあって、何だか多数決を優先してる感が好きにはなれなかった。

ラスト、イーダは母に泣きつき、アナは何を描くのか描かないのか、果たしてどうだろうな。