カルダモン

イノセンツのカルダモンのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
3.9
家庭の事情で親に構ってもらえない子供たち。夏休みだけどどこにも連れて行ってもらえずに、広い団地の中でひとりぼんやり寂しい時間を過ごしている。そんな子たち4人が自然と集まって、誰にも言っていない秘密の力で遊び始める。

これをやったらどうなるか。という想像力が未完成な子供たちの危なっかしい遊びにハラハラ。心の中で何度も「やめなさい!」と念じたけど私のテレパシーは通用しなかった。

団地に引っ越してきた自閉症の姉アナと9歳の妹イーダ。アナに付きっきりになっている両親が面白くなくて、親の目の届かないところで姉に意地悪をしたりする。そんな繊細で淡々とした語り口は、子供の言語化されない気持ちがダイレクトに伝わる。そこには善悪以前のコントロールできない感情や暴力。力を使うことによって相手や自分がどう思うか、どう感じるのか、という単純な興味があった。

子供は子供だけにわかる言語で繋がっているようなところがあり、大人が思っている以上に小さい頃から多くの感情のやり取りをしている。態度や行動で子供だけのルールで社会ができている。

イーダ、アナ、アイシャ、ベンジャミン。
子供たち4人だけの世界。
大人は介入しない、できない。
安定しない超能力で争う子供たちは、
彼らの不安定な精神と重なる。
逆に、繋がりを感じあい精神が集中し始めると力が増幅する。

音の緊張感が凄まじかった。鍋のフタが転がってぐゎんぐゎん鳴る音とか、車が走り抜けていく音とか、骨の折れる音とか。一番印象的だったのはアナがお絵かきボード(マグネットのペンで何度も描けるやつ)でワシャワシャ落書きする音。

監督が公言しているように大友克洋の『童夢』にインスパイアされた作品で、チョウさんは出てきませんが大雑把にほぼ『童夢』でした。



余談
『童夢』の映像化については大友克洋が予告編という形で存在しているらしいのですが正直原作を超えるとは思えないので見るのが怖い。
『童夢』の凄さは、黒いインクと白い余白から生まれるコマの緊迫感で、それは紙の質感、ページをめくる速度などなど漫画を読む時の想像力が何倍にも膨らんでいくような感覚があるからです。
でも、完成したら絶対観ちゃうよね。