故ラチェットスタンク

イノセンツの故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
4.2
『好奇心は猫を殺す。』

 子どもの本能・好奇心の自由度の高さをナマモノとして取り扱えている。素晴らしい。愛でる・虐めるという行為に境界を持たない。加害と寵愛の距離のなさ、身体への実感のなさが歯止めの効かない惨事を引き起こす。客観的にこの物語を「見る」観客にとって恐ろしいのはここだ。しかし、主観的にこの物語を「歩む」彼ら・彼女らにとって恐ろしいのは、その傍若無人な行為が相対化され、そこに倫理的境界が発生してしまう事だろう。うっすらと引かれた境界線が徐々に濃くなっていく様の恐ろしさ。クライマックスで彼女が抱くことになる押し潰されそうなほどの罪悪と自己嫌悪に打ち震えた。

 子どもの透明性を無批判に描かないが突き放しもしない。この両面性がともすれば荒唐無稽なサイキックバトルに真実味を与えている。子どもを閉ざす、しかし子どもにはあまりにも大きすぎる団地という空間の不可思議さが面白い。また、視線と沈黙を使いこなすホラーシークエンスの数々によって、固く担保された娯楽性も有しているので是非とも人口に膾炙してほしい。