青の

イノセンツの青ののレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
4.0
【 団地、子供、サイキック! 】

大友克洋と言えば真っ先に『AKIRA』を思い起こすが、コアなファンなら『童夢(どうむ)』を挙げるかもしれない。
1980年当時、都内某集合団地での後を経たない飛び降り自殺にヒントを得て描かれた、同氏のSFホラー漫画である。
※現在某所は対策/整備が施され、飛び降りは無くなった。

動機も証拠もその関連性も不明なまま、団地内で連続する飛び降り自殺や不審死。
謎を追う刑事の前に現れたのは、1人の老人と幼い少女…。
写実的でありながらCGすら無かった当時のSF映画よりも、より映画的なアングルと描き込み。
超能力を扱いながらも、匂いすら感じる生々しい生活感とリアルなキャラクターデザイン。
その技術は手塚治虫をも嫉妬させ、後のアクションものや超能力バトルものに多大な影響を与えたSF漫画の金字塔。


今作の監督は、その『童夢』にインスパイアされてのストーリーであると公言している。
たしかに『童夢』を知っていれば「こ、これは!」となる箇所は多分にある。
もちろん、漫画を知らなくとも独立したストーリーなので楽しめる筈(たぶん)。

ただ、北欧映画ならではなのか、良く言えば「独特の間(ま)」がある様な、悪く言うと「冗長気味」にも。
あくまで感覚的なものなので、そこは好みかもしれないし、個人的には大好きな作品の一つとなりました。



-恐るべき子供達-
無機的で閉塞感のある集合団地、危う気で「生き死に」と「遊び」の境界が曖昧故の残酷性、その無邪気さに「力」を与えるとどうなるか?

無垢なる存在=子供が社会的な善悪や公徳心を学ぶ以前に、「力」により他者を操る事が出来、自身の憤懣を八つ当たり的に開放できる。
現実的に「そうはならんよ」と理解しつつ、ただの「力への憧れ」だけなら、いわゆる中二病で済むし笑える話しだ。
しかし、今作の様に「俺つえー!」な無敵状態のままだったら?
今作を見て現実に起きた陰惨な事件を想起させたのはそこかもしれない。

つまり今回は「超能力」だが、それがナイフだったら?と捉える事もできる。
作品内ではその要因として、4人の家族の状態で示唆している。
バレは避けますが、単純なサイキックものでは無いと考えさせられた。
良作でした。

ちなみに原題(ノルウェー)の『De uskyldige』は
「無実の者」だそうです。

★以下、予備情報無しで見たい方は読まないで下さい。



























—ちょびっとネタバレ—

ラストの団地内公園での決戦はもろ『童夢』だった。
ベランダから見下ろしながら「力」を発する子供らは正にそれ。
ブランコの支柱がゴンってなる所とかね。
もう、見ながら歓喜の声をあげました。

また、第三者の意思を乗っ取り代理殺人をさせるプロットは、あの浪人生のカッター「カチカチ」だ。
そして、アンナ(自閉症)と言えば、中身は子供の大人=ヨっちゃんの存在とダブる。

漫画の様な大破壊こそ無かったが(あったら、それもう『劇場版 童夢』だよね)オマージュ作品としては素晴らしい作品だったと思う。

★また、類似作品として『クロニクル(2012年米国)』がある。
監督は『AKIRA』や『キャリー』に影響を受けたと答えている。

★唯一の不明点 
ストーリー後半、アンナとイーダとパパが団地内の公園から建物に入って行くシーン。
背後からただならぬ雰囲気で3人を追いかけ、ドア越しにバンバンする男。
あれ誰???
後にも先にも絡んでこないし…。
何か見逃しているのかな?
もしかしたらホームレス的な無敵な人で、後のイーダの「恐怖の対象」としての前振りだったのか?

理解されている方いらしたら、是非コメントにてお願いいたします。
青の

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