櫻イミト

道化師の夜の櫻イミトのレビュー・感想・評価

道化師の夜(1953年製作の映画)
3.5
監督にとっても曲芸師にとっても危険は同じようなものだ。それは堕落の危険と自殺の危険だ。私がどんなに長いこと批評に対して耐えてきたかわかるまい。——ベルイマン

前年の「不良少女モニカ」に続く、ベルイマン監督と14歳差の愛人ハリエット・アンデルセンによる2作目。当時の二人を自虐的に描いたとしか思えない内容で、巡業サーカス団の団長と若い愛人曲芸師の惨めな生きざまを描いている(後年の「魔術師」(1958)でもベルイマンは魔術師と自分を重ねている)。自作がスウェーデン国内でなかなか評価されない苛立ちが伝わってくる。終盤に長年連れ添った老いたクマを殺すのは、落ちるとこまで落ちた人間の絶望的な最低ぶりを描こうとしたのか?興行的には全く集客できず大赤字の作品となった。

重苦しい映画ではあるが映像的な見どころは多い。何しろ引退作の「ファニーとアレクサンデル」(1982)までタッグを組む撮影スヴェン・ニクヴィストとの初仕事である(実は代役としての担当だった)。特に冒頭のピエロと妻の回想シーンは悪夢的な映像が斬新で、本作での初タッグがお互いにクリエイティブな刺激を触発しあい後年の傑作群に繋がるという部分では超重要作と言える。

当時、本作の酷評に対して、同じく道化師を扱った翌年のフェリーニ監督「道」は絶賛されたのだった。

※終盤に登場する猫の使い方が素晴らしい。イカ耳の猫を映画で初めて観た。
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