ひでやん

道化師の夜のひでやんのレビュー・感想・評価

道化師の夜(1953年製作の映画)
3.8
暮らしは浮草、魂は雑草。

道化師を描いた今作が興行的にコケて、フェリーニの『道』が絶賛されたので、ベルイマンは歯痒い気持ちだっただろう。今作の巡業サーカス団にあるのは差別、貧困、屈辱、憐憫とまあ、どこまでいっても惨めさが増すばかりだった。

不安定な暮らしに嫌気が差し、別れた妻の元へ戻るも拒絶された座長。その事に嫉妬して劇団の若い俳優と浮気した座長の愛人。愛想が尽きそうで尽きず、離れられない女と、踏んだり蹴ったりで落ちるところまで落ちた男の哀愁漂う悲劇だった。終盤の座長は自暴自棄というより自己憐憫に陥っているようで、漂う哀愁が半端ない。こめかみをぶち抜く根性がなくて良かったが、熊はやめておくれよ。

序盤で挿入される白飛びのサイレントが強烈な印象を与える。望遠で映し出すワゴン、天井を見上げるようなローアングル、背中越しや鏡越しで会話する構図が美しい。

ベルイマンと恋人関係にあったハリエット・アンデルセンは、前作の『不良少女モニカ』よりも魅力的で、彼女の艶めかしい美を余す所なく今作で映し出している。座長が彼女の姿を見かけるシーンから次のシーンへの場面転換で、トランプのクイーンをアップで映したのが良かった。座長もベルイマンもDay dream Believer、そんで彼女はクイーン。
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