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パラレル・マザーズのumisodachiのレビュー・感想・評価

パラレル・マザーズ(2021年製作の映画)
4.5


ペドロ・アルモドバル新作。

写真家のジャニスは40歳を目前にして既婚者アルトゥロと関係を持ち、予期せぬ妊娠。産院で未成年の産婦アナと知り合い連絡先を交換する。アルトゥロに「生まれた子が自分たちに似ていない」と指摘されたジャニスは、憤慨しながらも気になってDNA検査を実施。すると結果は……。

同じ日に出産した年齢の違う2人のシングルマザー。運命のいたずらが引き起こす彼女たちの心の絡み合いと、彼女たちからさらに過去へと連綿と続いていく【母たち】(と、父たち)とに光を当てていく構成になっている。

ジャニスを演じたベネロペ・クルスは生涯ベストアクトでは?というほどの熱演を見せている。自立した女性としての凛とした強さ、予期せぬ妊娠と芽生える母性、残酷な運命に怯んでしまって見せた弱さ、それでも生き続けるという強い意志。容姿の美しさは以上に醸し出す人間的な魅力というか、つい吸い寄せられるように頼りたくなってしまう雰囲気というか、(低俗な色気とは違う)なんともいえない吸引力を持つ大人の女性を非常にリアルに演じていた。(すっぴんだとこんな顔になるのかーとか、随分歩き方がガニ股なんだなという驚きもあった笑)

また、アナを演じたミレナ・スミットも独特の個性で素晴らしい。不安でいっぱいの弱弱しい少女が、母になることでどんどん変化していく様子を見事に演じていた。なお、ジャニスとの関係の変化が唐突に感じられる人もいるかもしれないが、私は自然な流れなのではないかと思った。父母の愛情に飢えてああいう過去を抱えていたアナが、ジャニスに対して強烈に依存するのは何ら不思議ではない。まだ10代だしね。

本作は2人の母親のパラレルな関係という他に、「スペイン内戦で消えた人々の遺骨を発掘する」という歴史的なテーマも含んでいる。ジャニスは曾祖母や祖母たちから聞かされていた曾祖父たちの埋葬地を発掘したいと願っている。内戦の初期に連行され殺され埋められた村の男たち。ジャニスの願いは村の人々全員の願いだった。

血は継承され、記憶は継承され、絆は継承されていく。スペイン内戦の傷は、残された人々の心に今もなお暗い影を落としている。生まれてきた我が子を愛するように、死んでいった祖先も愛しているから。

ジャニスとアナの込み入った物語と、埋葬地の発掘の顛末は一見すると繋がらないように感じるかもしれない。でも、私とあなたの物語が繋がりあって社会や歴史はできているわけで、ジャニスとアナの運命が「なかったことにはできなかった」ように、スペイン内戦で曾祖父たちが消えた事実も「なかったことにはできなかった」のだ。自分の中に流れる血の記憶を意識して生きているジャニスだからこそ、あれだけ苦しんだはず。2人の女性による葛藤と、多くの女性たちによって紡がれていく歴史の奥行。「2つの要素が繋がらない」じゃないんだよな。ジャニスにとっては「2つの要素は切り離せない」んだよ多分。それは同時に、アルモドバルの中で人間と歴史が切り離せないものだということも示しているんだと思う。(だからあのラストなんじゃないかな)

アルモドバルは母親を描くことに執着しているというのは皆の共通認識だと思うが、本作については正直それがかなり過剰ではある。基本的に物語の主体はすべて女性で、男性は完全に脇だ。ジャニスが胸に「WE SHOULD ALL BE FEMINISTS」(ナイジェリアの作家によるエッセイのタイトル)とデカデカと書かれたTシャツを着ていたり、アナの母親が老いていく女の自意識についてのモノローグをたっぷりと披露したりと、露骨な演出も散見される。

でもね、それがいいの!変にスッキリとさせずに出したい要素は思いっきり溢れさせるのがアルモドバルの良いところ。ぶっちゃけ、血とか家族に固執している感じがちょっと危うい気もするんだけど(それって呪いにもなるから)、良くも悪くも逃れられない絆の強さを信じているのを隠そうとしないというか、取り繕わない感じが好き。もちろん女性への崇拝も。まるで隠してなくてダダ洩れなのが良い。

そして、相変わらず魅力的なインテリアと衣裳ー!!ジャニスが来ていたリバーシブルのムートンジャケットみたいなやつと、アナが来ていた衣裳のすべてがほしい。







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