りょう

死刑にいたる病のりょうのレビュー・感想・評価

死刑にいたる病(2022年製作の映画)
3.6
 かなりグロテスクな描写もありますが、そうした惨殺の場面でも終始冷静で知的な榛村大和のたたずまいは、この作品の雰囲気を完全に支配しています。
 また、おそらく榛村大和よりも登場シーンが多い筧井雅也も含めて、24人もの若者の殺害をテーマにした物語であっても、登場人物が感情的になるシーンがほとんどありません(被害者の遺族である両親などが1人も登場しないからでしょうか)。その結果、意外と穏やかな気分でありつつも、一定の緊張感を維持して観ることのできる不思議な作品です。

 一方で、何かが足りないという印象が否めませんでした。一つ思い当たることとして、どうにも無気力で主体性も自律性も見受けられない大学生である筧井雅也が1通の手紙で拘置所に出向き、その場面の会話をきっかけに、突如としてFBIのプロファイラーや一流の探偵のように事件の真相解明にのめり込む姿は、何にそれほど触発されたのかが理解できずに違和感がありました。原作を読んでいないのでなんともいえませんが、その動機付けに説得力があれば、もっと物語に没頭できたかもしれません。
 もう一つは、ところどころに登場する加納灯里の描写が非常に中途半端で、彼女の存在に何か意味があるのだろうと思いつつ、ようやくラストシーンで納得しましたが、すでに希薄になっていた物語そのものの印象を挽回するには至りませんでした。

 それでも、白石和彌監督の演出と阿部サダヲさんの演技は、「彼女がその名を知らない鳥たち」以上に相性のいいタイプの物語だったので、若い2人の俳優さんの違和感だけでこの作品を評価すべきではないと思います。大間々昂さんの劇伴も非常に効果的で、白石監督の作品のクオリティは十分に堪能できました。
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