眠人

死刑にいたる病の眠人のレビュー・感想・評価

死刑にいたる病(2022年製作の映画)
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所謂「サイコパス」を扱った映画だと思っていたので、今まで敬遠して観てこなかった作品。Netflixで配信が始まったというので暇つぶしも兼ねて鑑賞してみると、実は露悪的な「サイコパス」映画ではなく、むしろそんな短絡的な見方を諌めるような内容だった。たしかに、阿部サダヲ演じる榛村の犯行方法がいかにも「猟奇的」に見えるので、ついつい彼を「サイコパス」と決めつけてしまいそうになる。そうやって犯人を異端視して自分たちとは全く違う存在として切断処理することは、わかりやすくてエネルギーもかからないのだけど、そのような単純な認識は、犯罪の原因を全て犯罪者個人の問題としてしまい、背後にある構造的な問題は見逃されて放置されたままになってしまう。

この物語は、家父長制社会における暴力の連鎖が今もなお脈々と続いていることに警鐘を鳴らしているのだと僕は受け取った。暴力は被害者の尊厳と自己決定権を徹底的に剥奪し、被害者に罪悪感を植え付け、しまいには被害者同士を争わせたり、被害者を次の加害者に仕立て上げてしまう。ある面では榛村もバットマンのジョーカー的な「悲しきモンスター」のような立ち位置になるのだろうか。だからといって彼の加害行為は全く肯定出来ないし、絶対に許してはいけないと思う。

拘置所の面会室のショットが多い。アクリル板越しに互いを見つめる雅也(岡田健史)と榛村が交互に映し出され、二人の像が次第に重なっていたり、離れていったりと、まあちょっとくどいのだけど、榛村と雅也には共鳴する部分があることを示唆している。雅也が大学で再会した同級生の灯里(宮崎優)に欲情しているように受け取れるショットが、雅也の心の奥底に潜んでいたどろどろしたものが滲み出す瞬間を映しているようで目を背けたくなった。

若かりし頃の松山ケンイチを彷彿とさせる岡田健史くん。トラウマとコンプレックスを抱え続ける青年を見事に演じきっていた。そして、驚くべきは中山美穂の地味な渋さ。かつての国民的アイドルとは思えなかった。演技が臭い所がもうちょっと洗練されていったら、もっと引っ張りだこになるのかもしれない。
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