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サウダーヂ デジタルリマスター版のyukoのレビュー・感想・評価

5.0
10年前、本作を初めて観たとき私は心斎橋のタイ料理店で働いていた 20人くらいのスタッフのなか、私を含む日本人4人を除きすべてタイから来た人たちだった お客からよく、タイ人と間違われながら彼らに混じって働いていた日々をなぜかとても詳細に覚えている
印象的なことはいくつかあるなかで最も心に残っているのは、安定した会社でオフィスワーカーとして働くため日本にきてバイトをかけもちしながら日本語学校に通うひとりのタイ人女性、その人と平日の少し遅い時間、客足は落ち着きいつも通り話をしながらジョッキ類を洗っていたときの彼女の言葉「毎日バイトバイトで自分の時間も無い、恋人と過ごす時間も全然無い。私は豊かで良い暮らしをしたいから日本に来たのに、なんでここに来たのかわからなくなってくる。」都心ではそんな風に移住してきた彼らと接する機会もあった(当時の時点で、地方都市では地域住民と移民たちは生活圏が完全に分かれている地域が多くそういうところでは交流することもなかったようだ)また彼らの日本に来た動機も都心と地方都市に暮らす人たちの間では微妙に温度差があるのかもしれない(私の職場の彼らはきっかけはジャニーズを好きになったからや、自分の夢を叶えるためなどであった)そして彼らの出身地もおそらく違う(バンコクにほど近い地域と、チェンマイなどの地域の差)だけど私がみた彼女のあのときの横顔は、本作での旅館で浴衣を着て納豆が入った器を手にして一筋の涙をながすミャオの姿と同じように、記憶のすぐ取り出せる場所にいつもある
異郷に暮らす人たちのこと(そのなかには昔ブラジルへ出稼ぎとして移住したたくさんの日本人たちのことも)を考えるとき自分の感情の普段動かないようなところが動くのは、10年前の彼らとの交流とそれと同時期に観た本作が根底にある
また、私の暮らしていた地元は大阪で都心に電車で30分ほどでアクセス出来るような場所だったから甲府で生活する彼らの生活環境とも違う
おもしろいものを観たかったら映画館に来いとでもいうような断固ディスク化しない姿勢と同じように、この街で起こっていることを実際にみて感じてほしいと空族は言っているように感じる そして実際に3年前の夏に訪れた甲府市は盆地特有の蒸し暑さ(京都のそれよりも暑く感じた)で充満していて商店街は静かで、そのときのことを思い返しながら、マグカップに雑に注がれた氷と大五郎やあるいは「日輪水」で、その身体を冷やして癒しを求める彼らを見つめた
海外の、その土地に焦点をあて映し出す作品も観てきてその度に心を揺さぶられるけど、この映画を観たときの気持ちにはならなかった 自分のいま住む土地に地続きの甲府という場所を見つめ続けるというのはそういうことだった いつまでもうまく言葉で説明出来ないこの映画に惹かれ続ける理由を考え続けるためにもこれからも観ていきたい、オールタイムマイベストのひとつです
(「わがままジュリエット」が流れつつそれをさらなる爆音で掻き消す暴走族たちの乗るバイクの排気音、記憶ではそこを精司が全速力で駆け抜ける姿が強烈にあるのだけど、今回観たらそんなシーンは存在していなかった そのときの私の願望を含む妄想を私はずっと現実のものだと思い込んできたことに、そして同時にこの作品の現実と虚構の境界の曖昧さがそうさせたのかもと思い身震いした)
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