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バーズ・オブ・パラダイスのtakanoひねもすのたりのレビュー・感想・評価

バーズ・オブ・パラダイス(2021年製作の映画)
3.5
パリ・オペラ座への切符を手にするためバレエ学校で切磋琢磨するバレリーナ達の友情とバレエ業界のドロドロ面(事実かどうかは分かりませんが……)をも写し出すバレエ青春ドラマ。

米から仏・パリの名門バレエ学校へ留学してきたケイト(ダイアナ・シルヴァーズ)初日から本場パリの洗礼を受ける、チュチュやバレエシューズ等は奨学金に含まれず自腹であると知らされ(ケイトの家は裕福ではない)失言から大乱闘に発展した同期生・マリーン(クリスティン・フロセス)とルームメイトに。
最初の出会いが最悪だったケイトとマリーン、やがて深い友情を結ぶように。
一席しか無いバレエ団への切符を「2人で勝って賞をとろう」と誓い合う。
しかし、ある出来事で亀裂が入り……。
 
「この世界はセックス、家柄、金」
…………伝統芸能/芸術とスポンサーは密接な関係ですし、それが現代でも物を言う世界であることは否定できないところ。
特に"伝統"と"歴史"が長いパリ・オペラ座は断トツの格式・階級ですし……家柄とお金はないよりあるほうが確実に有効なんじゃなかろうか。
実力も才能も勿論必須条件。
しかし最終選考に同レベルの者が残った場合に何が有利に働くかと考えると(大人の世界)

裕福ではないケイト、母親が大使で父親がミルク王のマリーン。
生まれ育ちの違いが後々冷酷な現実となってケイトの目の前に立ち塞がる。
実力で認められる……以前にどうしても超えられない壁があることに絶望するケイト。

バレエは美しさとロマンス、身体の線は重要で、体重を増やすことは出来ない。
ルッキズム至上主義。
そして男性らしさ、女性らしさがより求められる舞台。
また生徒達への重圧も半端ではなく、指導は容赦ないし、競争は激烈、ドラッグに手を出すのも少なくないのも実情を鑑みていそうな。
(スポーツ競技と違い薬物検査が無いそうです)

前半〜中盤は、ケイトとマリーンの蜜月の様子が、もうご馳走さまでして🙏
美しい少女がふたり、ひとつのベットで寝てる姿や、誓いの印に互いのピアスを片耳交換するところとか、もうもうもう!目の保養!

マリーンはオリーという双子の弟を亡くし、その原因が自分にある/そしてそのために両親(特に母親から)疎まれているという家柄と親の抑圧を感じ、爆発しそうな感情を抱えている少女。

大使館でのパーティで「踊ってみせて?」と言われ、ドレス姿のまま、裸足で華麗にターンを決め、ウェイターの持っていたグラスの乗ったトレイをシンバルの如く蹴り上げる場面のマリーンのカッコ良さ。惚れるわー。

私はマリーン推しで、彼女の華奢な肢体、美しく伸びる手足、小鹿のような顔立ちにノックアウトされました……。
そして双子の弟を魂の片割れ(バレエのパートナーでもあった)のように想う倒錯的な側面もたまらん。

そんな訳で2人の親密な関係が、誤解と嫉妬から破綻した時、ケイトのとった方法は卑怯だと思うし、自殺まで追い詰められたマリーンに心が痛む。
ケイト……腹いせでもアレはない。
(演出だし伏線回収なのは承知ですが、でもひでぇ🤬)

最終選考に残ったマリーンはソロ(振り付けも自分)を踊り、賞を放棄して場を去ってゆく。
そしてケイトはオペラ座への切符を手に入れるものの、本当の優勝者はマリーンでは?の疑惑を消すことが出来ない。

3年後、ふたりは再会。
この時のマリーンの晴れ晴れとした表情と、強張った表情のケイトとの対比。

意地の悪い私は、ケイトが勝者であるのに卑屈で敗者のような風情に胸がすく思い 笑
対するマリーンの吹っ切れた笑顔。

ダーレン・アロノフスキー監督の『ブラック・スワン』を彷彿とさせる、バレリーナの話でした。
美しく華麗なバレエ芸術の舞台裏の話。