ネノメタル

ヌーのコインロッカーは使用禁止のネノメタルのレビュー・感想・評価

4.5
正にタイトルが示唆する通り「コインロッカー」が登場して「生後間も無くロッカーに捨てられた発達障害の女の子とヤクの密売人男との不思議な心の交流」を描いた話。
と書くと児童虐待という社会現象に向き合った『ひとくず』を彷彿とするかもしれないが、正に予想外の意外なトーンに良い意味で裏切られた。本作は『ひとくず』『西成ゴローの四億円』シリーズなど過去作に顕著だった最後の最後まで妥協なき最後の最後まで突き詰めていくあの物語展開のうねりからはスッと開放され、10ANTS作品史上最も観る者各々に解釈が委ねられるポップな作風だという印象がある。
これは今回の主人公が発達障害という病をもちながらも自由気ままにスケッチブックに絵を描くアーティスト肌の古川藍演じるヌーのキャラクターによる貢献度が途轍もなく高い。もはや作品自体がまっ白なスケッチブックに思うがままに様々な心象風景を描写するヌーの絵そのもののようで時折挿入される劇伴のピアノも心地よいと思ったくらいだ。笑的にこんな感慨を抱くのは10ANTSの作品では史上初である。
そして今作で更に驚きなのはー上西雄大氏演じる【カーブ】という男は(前科者だけれども)極めて「普通の人」に近い領域にいると言って良い。彼にはこれまで人殺した歴もヤクをやった事も捕まった歴もなく、大金と言っても「四億円」じゃなくて200万だし、インスタも「インスタント??」などと本気でボケたりせずむしろ使いこなしてたりするし、何よりもよく「笑う」シーンが他作に比べて圧倒的に多い。下手しそういう意味では舞台での10Antsのモードに近い印象が本作にある。
それもそのはずで本作には既に舞台版が存在しているのだから。しかもシーその舞台版は今現在稽古などが進行中で映画公開と同時期に結論部分などエッセンスすら変えて再演すりゃ、との事。舞台が映画化したり、映画が舞台化したりなどのムーブメントはよくある現象なんだけど同時公開ってのはなかなか珍しいのではないだろうか?
ここから更に変化かつ進化するであろう演劇版が楽しみである。
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