このレビューはネタバレを含みます
山口まゆちゃん演じる、高校の美術部女子、結は、課題「軍艦島の風景」を描く、その構図が切なかった。
登場人物たちそれぞれが抱く、見えるのに手の届かないもの、行きたいのに向かおうとしないままなこと、などの思いを象徴するかのような…。
主人公・海星(佐藤寛太くん)もまた、後悔を乗り越えられない自分自身と、父の姿に、歯がゆい思いをかかえて、つい爆発しているが、父の旧友たちのおせっかいが背中を押す。というようなベタな展開ではありますが、キャストの魅力と、なんといっても、
ここぞというときに広がる、軍艦島の景色に目を見張りました。
かつては、海星の両親はじめ、人々の営みがあるひとつの街だった島。学校や病院だったのであろう、大きな建物の数々が、朽ち果てたままどっしりと建っている。
例えばウィル・スミス主演の『アイ・アム・レジェンド』では、草木が茂る廃墟と化した、近未来のニューヨークのビル群をCGでつくりあげていたけれども、
まんまそんな光景が、軍艦島には実際にあるわけで。
廃虚を駆ける寛太くんの、赤い服と対比する、深く暗い緑のなかのディティールが、目に焼き付けられていきました。
『アラビアのロレンス』を観た地理学者が、写っている地形は学術的にも貴重な映像だと言った、というような記事を前に読んだ記憶があるのだが、
この島もこれから年月を重ねて、どうなっていくか分からない。だから、この映画は、歴史的資料として残るという意味でも意義があるのではと思いました。