てっぺい

ある男のてっぺいのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.0
【ニ山ある映画】
盲点を突いてくる後半の映画の山。散りばめられた伏線を回収しながら、怒涛のラストでもう一山。山が2つ“ある”立体的な脚本で見飽きない。主役を食うレベルの柄本明の怪演も見逃せない。

◆トリビア
○ 妻夫木聡は初めての弁護士役。撮影前には実際の裁判を傍聴し、現役の弁護士に何度も取材して入念に役作りをした。(https://jocr.jp/raditopi/2022/11/15/465632/?detail-page=2)
〇安藤サクラは、役作りをいつも下着選びから始める。自身は普段ワイヤーの入ってないブラジャーを使っているが、里枝のイメージで、ワイヤー入りのもので現場に入った。(https://www.kinejun.com/2022/11/18/post-18041/)
〇安藤サクラは、幼い子供を病気で失う設定の役作りのため、医学書や闘病記などを読み込んだ。(https://www.elle.com/jp/culture/movie-tv/a41828312/sakura-ando-interview-22-1115/)
〇文具店で里枝が涙を流すシーンは、安藤サクラにとって初日の最初の撮影。本人はとても苦労した。(https://www.kinejun.com/2022/11/18/post-18041/)
○安藤サクラは、本作での女優引退を妻夫木聡にほのめかしていた。(https://mantan-web.jp/amp/article/20221118dog00m200067000c.html)
〇妻夫木聡と窪田正孝、そして安藤サクラの夫・柄本佑は、本作のボクシング監修である松浦氏にパーソナルトレーニングを受けている。(https://www.kinejun.com/2022/11/18/post-18041/)
〇窪田正孝がボクサーを演じるのは「初恋」(19)以来。撮影の1~2か月前からジムに通い、体を作った。(https://www.kinejun.com/2022/11/18/post-18041/)
〇城戸と小見浦の面会シーンは、コンクリート打ちっぱなしのスタジオを刑務所として飾り込み、スタジオ内に雨を降らせるなど、石川監督ならではの独特な発想かつ自由な映像表現が用いられた。(https://eiga.com/news/20221111/10/)
○ 城戸が恭一を訪ねるシーンは、原作と同じく群馬の伊香保温泉で、旅館を一棟貸し切って撮影。真冬の2月だったため、スタッフ・キャストは撮影後、温泉で体を温めた。(https://m.crank-in.net/news/115448/1)
○ 本作は第79回ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門(実験的かつ革新的な作品を対象)に選出。石川監督は長編デビュー作「愚行録」でも同部門に選出されている。(https://www.topics.or.jp/articles/-/796392)
○石川監督は、海外で鑑賞してもらう事を意識して、作品には主題歌をつけない。(https://moviewalker.jp/news/article/1109269/)

◆概要
【原作】
平野啓一郎「ある男」(第70回読売文学賞受賞、累計28万部発行)
【監督】
「蜜蜂と遠雷」石川慶
【出演】
妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、清野菜名、眞島秀和、小籔千豊、坂元愛登、山口美也子、きたろう、カトウシンスケ、河合優実、でんでん、仲野太賀、真木よう子、柄本明
【公開】2022年11月18日
【上映時間】121分

◆ストーリー
弁護士の城戸は、かつての依頼者・里枝から、亡くなった夫・大祐の身元調査をして欲しいという奇妙な相談を受ける。里枝は離婚を経験後に子どもを連れて故郷へ帰り、やがて出会った大祐と再婚、新たに生まれた子どもと4人で幸せな家庭を築いていたが、大祐は不慮の事故で帰らぬ人となった。ところが、長年疎遠になっていた大祐の兄が、遺影に写っているのは大祐ではないと話したことから、愛したはずの夫が全くの別人だったことが判明したのだ。城戸は男の正体を追う中で様々な人物と出会い、驚くべき真実に近づいていく。


◆以下ネタバレ


◆原作・脚本
Xとは一体誰なのか?大祐がガラスに映る自分に怯えた訳は?曾根崎とは一体誰?本物の谷口大祐はどこに?幾重の謎が次第に解けていく、飽きさせない怒涛の展開。そして後半、戸籍を2回変えるという、盲点を突いてくる原作力から、物語はそんな伏線を一気に回収するラストへ。穏やかなラストを迎えると思いきや、城戸が戸籍を変えるという衝撃。映画の山が2つあるような、立体的な展開に大いに見応えを感じた。

◆新しい人生
“人殺しの子は人殺しの子”と偏見を崩さない恭一(大祐の兄)に、城戸が感情をあらわにして投げかけた“新しい人生”というキーワード。大祐(原誠)は、自分の内に宿る狂気の面影に怯え、“自分を殴る”ためにボクシングをし、自害すらしかけた。思えば城戸も在日3世である事、義父母の心無い言葉に感じる距離、ヘイトスピーチと、自我に苦しむ点で原誠と共通。城戸は、Xの調査に没頭する事をとがむ妻に“気が紛れる”と発したように、原誠の出自を知るにつれ、シンパシーをいつしか感じのめり込んでいく。“新しい人生”は、何度も映像に挟み込まれたあのクレーンが作る新しい街のように、城戸が心の奥底で求めていたキーワードだと感じた。

◆救済
城戸は、そんな自我に苦しむ心を小見浦に見透かされ、感情をあらわにする。(面談室へ向かう通路でのあの印象的な靴音は、まさに小見浦に見透かされる城戸の“心の闇”に向かう演出だったし、柄本明の怪演の存在感たるや)妻の不倫に心の関は決壊し、自ら他人になりすまし“新しい人生”の選択をした城戸がラストで見つめたのはファーストカットにもあった絵画。まるで人間の二面性をそのまま絵にしたようなあの絵画は、“分人主義”を説く平野啓一郎原作の骨頂。ただ、映画全体としては、戸籍交換という悪も、何かに圧迫された人生からの救済として描かれており、里枝や悠人に幸せの記憶をもたらしている点でも、本作はそこに疑問を投げかける肯定的な作品だったと思う。

◆関連作品
○「愚行録」('17)
本作同様、石川監督・向井康介脚本・妻夫木聡主演で石川監督の長編デビュー作。プライムビデオレンタル可。
○「蜜蜂と遠雷」('19)
石川慶監督の代表作。様々な立場でのピアノ演奏者の心の葛藤が描かれる。Netflix配信中。

◆評価(2022年11月18日時点)
Filmarks:★×3.9
Yahoo!映画:★×3.2
映画.com:★×3.8

引用元
https://eiga.com/amp/movie/95596/
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ある男
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