リプリー

ある男のリプリーのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

石川慶監督×妻夫木聡主演という「愚行録」「イノセント・デイズ」コンビ。ずっと楽しみにしていた作品で、原作を読んだ上で鑑賞した。

愛した男性が実は見知らぬ男性の名前を名乗っていた。では、愛した彼は誰なのか……。
この誰がどう見ても面白い設定から、在日問題、ヘイトスピーチ、差別、死刑制度の是非など、様々な社会問題を内包しつつ物語は展開していく。
登場人物も多く、果たしてこれをどう2時間の映画にまとめるのか、興味を持った。

彼は誰かを巡るミステリ部分は、映画で見るとサクサクと進んでいく印象を受けた。それもそのはずで、原作では執拗に描かれた妻夫木聡演じる弁護士の心理描写、心のゆらぎ、家族を巡るゴタゴタは映画では描かれない(描けない)からだ。本来ならかなり重い物語も彼の弁護士仲間に小籔千豊をキャスティングし、役割を原作より大きくすることで清涼剤になり、かなり見やすくなっている。
そのあたりの省略を原作を読んだ身からするとやはり少し居心地の悪さを感じてしまった。
特にホンモノの谷口は、原作では文字通りしょうもない男で、その描写が個人的に好きだったため、ちょっといい話風に着地することにかなり違和感を感じた。

しかし、しかしである。
ラスト、原作のとあるシーン(主人公が見知らぬ人間を相手に“彼”を名乗る)をラストに持ってくることで、映画ならではの(それでいて原作の核となる“自分を自分たらしめるのは何か”というテーマを抽出した)何とも言えぬ後味を観客に与える。
ここでもう完全にうなってしまった。
これぞある男だと。
「愚行録」にも通じるイヤな映画だと。
心のなかで拍手喝さい。
この後味を引き立たせるために、あの改変があったのかと感心してしまった。

あとキャスト陣すべてが違和感なくハマっており、相変わらず撮影が素晴らしい。特に安藤サクラと窪田正孝の車中でのシーンの美しさにはウットリとしてしまった。
やはり石川慶監督、恐るべしの作品だった。