あき

ある男のあきのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.8
心を抉られまくった映画だった。
人は、その人の境遇や社会的地位、見た目など目に見えるもの、知ることができたものでその人をカテゴライズし判断し決めつける。
目に見えないその人の心の内や人間性などまるでその人の存在意義には無意味かのように。
ここでは、ある男は死刑囚の息子として、もう一方は在日の息子として、周りの心無い態度や言葉にもがき苦しむ。
この物語を理解するうえで、冒頭とラストに象徴的に映し出される絵画 マグリットの「複製禁止」が重要な位置を占めている。
本作を観た方であれば、”複製禁止”、あぁまさにそうだとピンとくるだろう。
そしてこのすべてを物語るかのような絵画に描き込まれている本がエドガー・アラン・ポーの「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」であることも象徴的で、未完であるこの本は、この映画のベースに漂う問題が決して終わることはないのだということを示唆しているように思える。
安藤サクラが夫だと思っていた男が全くの別人であったことから始まる謎解きをベースとした物語だが、ラストでの妻夫木聡演じる弁護士への独白がすべてであるように感じた。
また、柄本明の存在感も圧倒的だ。セリフのひとつひとつが重く、芯を突いている。
そしてラストシーンには、本当に鳥肌が立った。
しかし、そのとき真木よう子が物語序盤で妻夫木聡の宮崎出張の理由を問いただそうとしたシーンを思い出し、改めてゾッとした。
そして自分的にはこの一節がずっと頭をよぎった映画だった。
”かつて私は盲目だった。でも今は見える。 一ヨハネ第9章25節”
あき

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