うしぱんだ

ある男のうしぱんだのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.5
まず、注意喚起。
朝鮮半島ルーツの方に対する直球のヘイトスピーチが繰り返し出てくるので観ていて辛くなるかもしれないです。当事者でなくても相当にきついです。
ただ、映画の製作者たちがあえてこういう表現を入れ込んだことは理解できます。現実世界でヘイトスピーチが存在し、傷付けられている人がいることから私たちは目をそらしてはいけないという強いメッセージを感じました。(作品に取り込んだことにも意味があると思うけれど、柄本明は二回もいる?と思った位、きつい)

小ネタとしては、
・お葬式が多すぎの家…
・551の豚まん食べたくなる
・刑務所の廊下が怖すぎる
・仲野太賀はいつも美味しい役をさらっていってずるい
・清野菜名が可愛かった
・ロケ地は鰻推し
・前髪をおろした窪田正孝がよい(けど辛い)
・髪の長い真木よう子が不穏すぎた
・ハガキに書かれてたヒントに気付くの遅くない?

夫が亡くなって初めて別人と気付いた妻、ではあの男は一体誰?というのが中心の話と思ったら、実は主人公は妻夫木聡演じる弁護士なんだと途中で気がついた(ポスター見たらわかるだろ)。
自分に向けられたものもそうでないものも混じり合って、彼の中にどんどん毒がまわっていく。依頼人たちは心の内を打ち明けて、自分でも考え行動して前を向いて歩きだすのに、彼は誰からも話を聞いてもらってなくてたまっていくばかりで、妻は仕事を家庭に持ち込まないでほしいと言う(これはわかる。わかるけれど、この妻がまた始終不穏さを醸し出していて出てくるたびにハラハラした)。
二人の男の人生が重なっていく様子はミイラ取りがミイラになったような恐ろしさがあった。過去を消した一人は束の間自分の幸せをつかんだように見えたけれど、もう一人はこれからどうなるのだろう。戸籍売買人に、自分もまた弁護士という肩書で自分を上書きしようとしていたのではないかと突きつけられて、過去を消そうとした男にどんどん感情移入していく。なんだか本当の自分を暴かれたというよりは呪われたようだった。

そういえば作中に過去のことで「大祐」に直接攻撃する人は出てこなかったけれど、彼について語る時に差別感丸出しの発言をする人は何人もいて、自分に向けられたのではないその言葉もまた、弁護士にダメージを与えてたのだなあ、と後から思った。。

それと、過去を消そうとした男が死んだのは自らの行為に対する罰みたいにも見えて、最後まで観て余計に生きていてほしかった…と思った。
必死で隠してた過去は暴かれてしまう。ボクシングジムの人たちは過去を知っても彼を愛していたけれど、それでも救われなかった。家族を持ってからはどうだったんだろう。自分のせいではないのに背負っている罪の意識をずっと持ち続けてたのか、気になる。

あと一つ、妻の親とか差別的な発言する人がみんなイヤな人なのや、「大祐」が少年のようなピュアな人物像なのは、ちょっとずるいかもしれない。