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ある男のtntnのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.4
2023年映画館初め。
超良かった。妻夫木聡は、スティーブン・ユアンみたいな佇まいだ。アイデンティティの揺らぎという「普遍」的テーマを描いているようで、日本社会に現存する問題を扱ってるという自覚も忘れてない映画。そもそも自分のアイデンティティを問われても特に悩まないでいられることは特権であり、周囲からマイノリティに「見える」人と「見えない」人では抱えるリアリティも異なる。その人のことを、家族や経歴と結びつけてしまうことの暴力性は誰もが持ちうるものだし、同時に個人を家単位で管理する日本の戸籍制度ならではの物語だとも思う。
終盤の、安藤サクラの息子が自室で本音を吐露する場面。台詞が素晴らしいのは勿論のこと、ここでずっと彼の部屋にある本が映ってるのが良かった。直前の安藤サクラの台詞と合わせて、要は彼が背伸びして哲学書(?)とかを読んでいたことがわかる。勉強してるから、インテリだからいいみたいなことでは勿論ない。自分の抱える苦悩や葛藤に何とか答えを出そうとして、小難しい本にも手を出している彼の切実な感情が滲み出ている。
ツリー・オブ・ライフという言葉があるぐらいだから、木にも家系図のイメージを編み込んでいるのか。だとしたら、それを切る仕事についた窪田正孝と彼の行く末にもまた考え込んでしまう。ラストで、暗転した時本当に暗闇に放り出されたかのような気持ちになった。でも、あの結末は後味悪いだけではないはず。
顔や身体を持った自分を巡る思弁的なテーマと、地に足のついた社会問題に逃げずに向かい合うことの両立ができてるのが何より良かった。
映画としてももちろん素晴らしくて、何かが起きそうな雨の予感、真っ暗闇を走る自転車といった印象的なイメージが沢山あった。
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