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ある男のcinemageekのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.1
ある男

監督/石川 慶(いしかわけい)

 蜜蜂と遠雷(19)
 Arc(21)



出演/
妻夫木聡
安藤サクラ
窪田正孝
清野菜名

柄本 明(えもと あきら)


原作小説を未読でも十分楽しめるある意味ミステリー作品
2022年を代表する一作になっている

脚本は徳島県出身の向井康介(むかい こうすけ)が担当


原作を活かした見事な完結作品に仕上がっておりラストシーンのカットアウトする終わり方が秀逸


全員が演技達者であるためグイグイ物語の中心に引き込まれていき、本当に大切なものを見定めるためのポイントは何なのかを考えさせられる映画に仕上がっている

ポイント1
ワインラベルを比喩に使った
人の本質は何なのかを語る一作

この映画は昔大ヒットとなった松本清張の砂の器を思い起こさせる物語展開になっている。
その砂の器でポイントとなった戸籍というものが大きな鍵になっている

データ上の戸籍の 手前にあるのは一人の人間でありその人間をかたどっているものはなんなのか?
を問いかける。
名前はそもそもなのか?部分をワインラベルに例えている比喩からの展開がとても面白い


ポイント2
江本明の 怪演とも言える ミステリアスの役どころ

江本明は差別主義者とも言える人間の役で 主人公の妻夫木聡が抱えている心の闇をチクチクと刺激する
それに加えて真犯人へと導くヒントを正面から与え続けるという「羊たちの沈黙」で言うレスター博士のようなポジションになっている

それゆえにもう少し 彼の出演シーンを増やし会話劇を淡々と見てて欲しかった部分もあるが もしかしたらリメイクされる時はそこが強くなるかもしれない

ポイント3
いまをかたどった人格は
過去を受け入れること

この映画でキーとなるのは犯罪者の息子が犯罪者ではないということがわかりつつも 好奇の目で見てしまう人間心理や自分自身が置かれた血筋が呪いとも言うべき縛りで抱え込んでいる悩みや苦しみを持つ若者の物語でもある

特に最後の数分でのとあるキャラクターの心の壊れ方とも言うべき部分は考えさせられるものである


ストーリー
次男を病気で亡くし、父とも他界。母と二人で文房具屋を営むる里枝(安藤サクラ)。そこに一人の客・谷口(窪田正孝)がやってきて買い物をする。それが谷口との出会いだった。
いつしか時は流れ二人は惹かれ結婚し子供をもうけるが、谷口は仕事の途中 大木に倒れてきた大木の下敷きになり亡くなってしまう。
谷口の兄がやってきて焼香を上げるとき、谷口の写真を観て、弟じゃない別人だというのだった。
果たして彼は何者なのか


主人公は在日3世で帰化して日本人なった弁護士城戸役妻夫木聡
亡くなった男性が全くの別人だということを知り驚愕する女性役を安藤サクラ
そして謎の男を窪田正孝が演じている
戸籍制度は日本の大切な一つの文化でもあるが、それを売買する服役している犯罪者役を柄本明

この映画を見て真っ先に思い出すのはやはり松本清張の砂の器だろう

犯罪者の息子は犯罪者ではない
誰しもわかっていることだが、それを色眼鏡で見てしまう人が一定数いるのも事実である

その当事者の抱える悩みや悲しみと言った部分は、窪田正孝の演技の良さでキャラクターとして悲哀を引き出しているとも言える。


そしてもう一つ忘れてならないのは安藤サクラ演じる女性の長男の台詞
彼自身が父親に求めていたことというのは父親としての存在で、血のつながっていなくても謎の男であったが、父親を大好きだからこそ出てきた一言が涙を誘う

彼の演技の何気ないちょっとした動作。他人に寂しさを見せまいとする、体の震えや手持ち無沙汰になった際の手の動きといった、ちょっとした動きがとてもうまく、感動を呼ぶ形になっている


一方妻夫木聡演じる帰化したとはいえ在日3世の弁護士の彼が抱えている心の闇も深く捉えている。
夫婦間に亀裂が入り妻の秘密を知った時の彼のぎこちなさなども旨い

https://www.youtube.com/watch?v=FPVJdIqxXZI
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