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ある男のicのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.6
社会人になって当たり前のように自己紹介から始まり、名前はもちろん肩書きがあることが今まで以上に重要な場面が増えた気がする。仕事場でもプライベートでも、私は〜です。あなたはだれ?を当たり前のようにやりとりをこなす。名前と肩書きが自分を構成するものであるようで、どこか本質的では無いという瞬間もある。あなたは何者か、と聞かれたら恐らくすぐには答えられない。名前に縋って、かろうじて説明ができてる節がある。
もしも、名前を取ったら自分には何が残るのか。フィジカルでは、自分は自分であることに変わりがないのに、名前が自分を識別してくれる存在。名前を変えられたら人生も変わるのか?特殊な名前を持てばそこに興味を持ち近づいてくる人もいるわけで、ああ私は誰だろう。何をみられているのだろう。名前以外を見てくれてる人は何人いるのだろうか。

劇中に出てくるのは、戸籍を変えて、国籍を変えて、やっと手に入れた新しい人生を送る人たち。いつまでも付きまとってくる過去、生きづらさ、トラウマ…。平穏な生活を送りたいだけなのに、叶わない葛藤。

最後のシーンでは、
ーーーー好きに生きるのが一番ですね。自分の人生は自分だけのものですから。

というセリフが印象的だった。
果たして、自分の人生は自分だけのものなのか。生まれ育った環境は関係ないのか。雁字搦めに固められた自分は結局だれかを決めるのは他人で、その視点があるから、何者かが判断できる。頭の中をぐるぐると駆け巡る。

たかが名前、されど名前で、
人生は良くも悪くもなるわけだ。


湿り気のある手の温度、やたら近いランニングの息遣い。劇場でもみたかった。
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