怡然じらく

ある男の怡然じらくのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

「自分の人生は自分だけのもの」とか「親は親、子は子」とか、そういうのは本人が必死に自分に言い聞かせて何とか生きていくための言葉で、何も知らない他人が言うのはこんなにおこがましいことなんだと初めて気がついた。

ただ生きているだけなのに、なんにも悪くないのに業を背負わなければならない原誠のやり場のない痛みが、会長に「自分を殴るために」と打ち明けた場面からずっとこちらに投げかけられてきて、涙がこぼれた。

「死刑囚の息子」というわかりやすいしがらみもあれば、「家族からの無能扱い」という分かりにくいしがらみだってある。思わず「恵まれてるね」なんて言ってしまいそうな。
そんな他人に理解されない苦しみ、自分に流れる血も全て含めて、自分の存在を愛してくれる人を見つけた窪田さんの笑顔や大賀のさんの泣き笑いが秀逸で、同じ苦しみを抱える弁護士が最後にとった行動の切実さも理解できる気がした。

どう頑張ったって変わらない自分の中の何かを必死に変えよう変えようとして、偏見に耐え抜いてようやく報われたかと思われた時にあっさりと命を散らすその無情さは、「すばらしき世界」の主人公を思い出した。やり切れない。

あと、女は強いと言うけれど、この安藤サクラは強すぎる。
子供を亡くして夫と離婚して、再婚相手も亡くして挙句に名前も戸籍も別だったとなったら私ならあんな風には絶対に振る舞えない。弁護士のように声を荒げたり子供に当たったりも一切しないし。
冒頭、ペンをいじくりながら人知れず涙する彼女の姿が印象的だったが、きっと描かれていないだけで、裏では何度も泣いたんだろう。
そんな彼女と数年でも共に過ごせた彼は幸せだったと願いたい。
怡然じらく

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