ねこねここねこ

ある男のねこねここねこのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

俳優陣が良さげで気になってるから観た映画。
柄本明はもう別格だなと感じる。

ある日宮崎の田舎で林業に従事しにやって来たある男、自称大佑(窪田正孝)が離婚歴のある子持ちの里枝(安藤サクラ)と出会い、結婚。周囲からもその存在を温かく受け入れられ、子供も出来て幸せな結婚生活を送っていたが、不慮の事故で突然亡くなる。
1年後に焼香にやって来た大佑の兄が、これは自分の弟ではないと言ったことから、じゃあ誰なのか?本物の大佑はどこなのか?となり、以前の離婚の際にお世話になった弁護士城戸(妻夫木聡)に依頼。
在日3世の城戸が捜査を進めて行く過程を軸に大佑と名乗って暮らしていた男Xがなぜ名前を変えたのか?その裏に絡む戸籍を斡旋する男(柄本明)やボクシングジムの人達、本物の大佑(仲野大賀)とその元恋人(清野菜名)。
周囲を小藪数豊やきたろう、でんでん、真島秀和などが固め、良い作品に仕上がっている。

殺人者の家族というと、東野圭吾の「手紙」を思い出す。
本人は何一つ悪いことをしてなくても、一生ついて回る殺人犯の息子というレッテル。周囲もだけど、実は本人が1番自分にレッテルを貼り、苦しんでいるのかもしれない。だから自分自身を殴りたくなるんだろう。

心機一転、新たな戸籍を手に入れてやって来た町で、最初は警戒する一部の人もいるものの、職場の上司(きたろう)は好意的に受け入れる。
里枝と出会い、結婚。そして里枝の連れ子悠人をとても可愛がる。ふたりの間に娘も生まれ、やっと手に入れた幸せな日々なのに、ある日突然襲った不幸な事故。

残された里枝は愛したはずの夫大佑が本当は誰なのかわからない。そして親の都合で何度も苗字がかわることにも釈然としない息子の悠人、それを温かく見守ろうとする里枝。
「わかってしまえば、本当は誰でも良かった」という里枝の言葉は真実だろう。そして短い間ではあったけれど、本当に心の底から笑えた幸せな日々だったことが救い。

一方、大佑と名乗る男Xの真の姿を追う城戸は、その中で在日であることの苦悩に向き合わざるを得ず、次第にXの生き方に傾倒してゆくのかもしれない。味方であるはずの妻の家族は差別意識が透けて見え、妻は妻で陰で自分を裏切っている。

ラストは城戸の希望的妄想なのか、出だしの伏線回収で、自分もまた別の人生を歩み始めたのか。

もし自分の夫が死後にその名前ではなかったと判明して、自分なら誰なのか知りたいか?と考えてみた時、私の答えはNo。
名前を変えたかった何か深い理由があるのだろうし、それを知ったからといって夫婦として過ごした時間が変わるわけでもない。
でもやはり結論に至るまで長い時間と疑問や苦悩がある。
そして法的な問題も。

自分の人生は◯◯という名前で決められるものじゃないけれど、どこに生まれ落ちるのかで左右されるのも事実。
ある日全てを捨てて新しい人生を始めるという生き方があっても良いのかもしれない。でもそれで残された恋人や家族はどうなるのか?などの問題も提議されている。
本当の家族とは?絆とは?
色々考えさせられた。