このレビューはネタバレを含みます
隙はあれど、役者のよさで2時間もたせてしまう力技の映画。
抑制の効いた安藤サクラも素晴らしかったが、瞬間火力としては柄本明が凄かった。
(小籔はさすがに芸人のイメージが強すぎる顔だと思うが…)
夜の車中で窓に映る自分の姿を恐れた「大祐」を里枝が「大丈夫」と慰める場面、あれは納得しづらい。
あの時点で里枝が「大祐」の過去を知っていて受け入れていたということはあり得ないし(もしそうなら城戸への依頼は不要になるからだ)、知らずにいたならもっと驚いて「どうしたの」と尋ねるのが自然じゃないだろうか。
あれよりも前に何度か「大祐」が鏡像を恐れる機会があったなら…と理解するしかないが、ずいぶん乱暴な語り方だ。
「曾根崎義彦」どこいったん。
在日三世であるという自らの出自と「人生を交換した」調査対象を重ねて見る城戸の葛藤は面白かっただけに、彼の夫婦関係が破綻していく様子も、ラストの間際に尺を惜しんで再現ドラマのような安い演出で妻の不倫を露呈させたりせずに、本編の流れの中に組み込んで丁寧に描いて欲しかった。
平野啓一郎の小説が原作になっていることは事後に知った、知っていたら観なかった…ということはないが構えは変わったかもしれない。
知ってしまうと、さもありなんと思えてしまうところもあるのだった。
思い返すにつけ、どんどん減点したくなる不思議な映画。
でも俳優は素晴らしかった。「それはハッキリとした事実ですから」。