sammy

ある男のsammyのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

027/2024

石川慶監督の「愚行録」が個人的にハマらなかったのでスルーしてましたが2023年の日本アカデミー賞最優秀作品賞ということで今更ながらNetflixで視聴。
しまった 劇場で観ればよかった。

序盤、本題に入るまでの役者さんの演技のおかげでどんどん話に引き込まれる。
始まって4カット目でもう泣ける。

弁護士が1人の人間の人間の正体を追うというストーリーテリングや全体のトーンは「三度目の殺人」に似てる気がします。
登場人物が多いのに一人一人丁寧に描いているので分かりやすくそれぞれに感情移入できました。

同じような題材を扱った「市子」も良かったけど今作も見応えがありミステリー要素のおかげで最後まで緊張感が途切れませんでした。

中盤、大佑(窪田正孝)の出自を追う城戸(妻夫木聡)の視点からいつの間にか大佑の回想に移っている演出が自然でとても良かった。

今の自分を捨て明日から別人の人生を歩めたら…なんて妄想を思わず掻き立てられますが、それが追い詰められた末に選ばざるを得ない選択肢だったらと思うとその切実さたるや想像を絶するものがあります。

大佑が不慮の事故に遭わなければおそらく寿命を迎えるまで平穏な生活は続いていたはずで、改めて考えると戸籍ですら改竄できる可能性があるとするなら自分が自分であることの証明ってどうやってできるんだろうとかぐるぐる考えちゃいました。

先述の「市子」もそうでしたが
それまでの他人との確執を一切断ち切り
新しい自分として生まれ変われたその先でさえ、やっぱり他人と関わりを持たずにいられないというのは業というべき人間の性なのだなあと感じました。
里枝(安藤サクラ)に描いた絵を見せる大佑のように自分をわかってもらいたいという承認欲求は人が人であるためのアイデンティティなんでしょうか。

主役の3人は文句のつけようもなく
ほんのチョイ役に至るまでこの上ないくらい完璧な豪華役者の布陣。
いやー出てくる出てくる。
モロ師岡?池上季実子?
仲野太賀?きたろう?
でんでん?
あまつさえドラマ「不適にも程がある」の坂元愛登や河合優実まで。
ちょっと冒険したかな?と思われる小籔さんもハマり役だったと思います。
そして柄本明のハンニバル◦レクターばりのおぞましさ。
不自然な関西弁という感想を読んで改めて見直しましたがウソ臭くて逆に効果的だったかなーと思います。

ただ
ファーストカットの絵に始まり、鏡の演出、消えていく手形、ラストの林の大佑、ひいては物語の展開に至るまで、全体的に少し説明しすぎなきらいはある。
これは「愚行録」のときも感じたなー。
テレビドラマじゃないんだからもう少し観客を突き放して解釈の余地を残してくれても良かったのになとも思うがこれは好みの問題でしょうか。
オチがついた後の熱帯魚の示唆とかも少しあざとく感じた。
ここはもう少し巧くなって欲しい。

本物の大佑(仲野太賀)と美涼(清野菜々)を会わせることは本当に良かったのかな?

次回の石川慶作品に期待します。
sammy

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