ヤスマサ

ある男のヤスマサのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.8
平野啓一郎氏の小説の映画化。
死後に別人と判った夫の身元調査を依頼された弁護士が、他人として生きてきた男の真相に迫るミステリー。

里枝(安藤サクラ)と大祐(窪田正孝)の出会いから始まるため、原作と違って、ミステリー性が高い作りになっているように思う。
大祐の死を境に、主役が変わったようにさえ感じる。
身元を偽っていた夫を謎の男「X(エックス)」として調査をする弁護士の城戸章良(妻夫木聡)は在日朝鮮人の3世だ。
彼の人生は、少なからず差別や偏見の目に晒され、結婚後も義理の両親から悪気を含んだ言葉に傷を負わされるという、本人の努力だけでは変えられない現実に憤りを感じている。
本当の大祐、大祐を騙るX(エックス)もまた変えようのない現実から、戸籍を変えることで逃避したのだ。
映画にはないが、原作では冒頭で、城戸が「他人の傷を生きることで、自分自身を保っているんです」と言う。
差別や偏見は決して承服される問題ではないが、無くならないばかりか、満ちているのもまた事実。
弁護士という社会的地位を得ても、社会的体裁は何ら変わらない。
城戸は、妻(真木よう子)のこと含め、その悲しくも認めざるを得ない不条理に、自分を見失いそうなのだ。
そこに他人の人生を騙ることへの良し悪しはない。
差別や偏見への問題提起というより、病んだ社会を突きつけられたように感じる重い作品。
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