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ある男のcalinkolincaのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
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誰もが逃れられない「血」と「アイデンティティ」にまつわる物語。

「ある男」というタイトルは窪田正孝演じる謎の男のことを指しているのかと思っていたけど、彼の正体を追う妻夫木聡演じる弁護士城戸、仲野太賀演じる谷口大祐、そして何度も名前が変わることに戸惑う里枝の息子、悠人のことも内包しているのだと感じた。

印象的だったのは壮絶な過去を持つ謎の男を演じた窪田正孝さんの彼のこころの痛みが伝わって来るよなセンシティブなお芝居と、彼の半生を知っていくうちに彼に感情移入することで在日三世である自分の出自からつかの間、離れられ安らぎを感じる城戸の危うさを演じきった妻夫木聡さんの演技力。そして、何を観ても「私は今、すごいものを見させられてる」と思ってしまう安藤サクラさんは今回もすごかった。

ひとは誰もよくも悪くも逃れられない「血」というものを背負って生きていて、城戸は謎の男の人生に共感し、没入することでその重荷をおろすことができていたんだと思う。だからこそ彼が最後に選んだ結末が怖すぎたし、背筋が凍った。あんな怖い終わり方あるか!(好き)

息が詰まるよな緊迫感の中で、謎の男を親身になって面倒見続けたボクシングジムの会長の「今のお前の家族は俺たちだ」という言葉とあったかさ、血の繋がらない息子が血とか出自とか関係なく彼を慕い、「お父さんにやってほしかったことを僕にやってくれていたんだと思う」と彼の想いを理解してくれていたことがこの映画にもたらされた何よりの救いだった。

インターネットで架空の名前を名乗り、他の誰かを演じて仮想現実を生きるひとがたくさんいる今の日本人に、あなたのアイデンティティは?あなたは一体誰?と問い、名前ってなんだろう?一体なんの意味があるんだろう?と考えさせられる深く記憶に残り続けるだろう一本でもあった。
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