現れる小林

ある男の現れる小林のネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ラストにものすごいどんでん返しでも起こるんじゃないかと勝手に期待していたが、そういうのはなかった。

谷口が曾根崎になっていた!というのはまあ確かに予想はできないかもしれないが、予想ができないだけというか、それが分かったところで特に感情的なショックはないので、作品にエンターテインメント性を一番に求める自分としてはちょっと物足りなさがあった。

衝撃の真実が暴かれる!的な作品ではなく、アイデンティティを巡る複雑な感情を丁寧に描いた物語だった。

まあ面白い話ではあったのだがやはり不完全燃焼感は否めない。後で回収される伏線に見えるような要素が結局解決せずに終わったのが少し肩透かし感ある。
最初に曾根崎だった男についての謎、小林と原が共に描いていた女性、柄本明の身元ロンダリングなどの、説明されずに放置されている諸要素が、妻夫木と関連する形で一気に繋がって驚愕のラストを迎えるのではないか、と思わせてしまうような構造になっているのは少々ミスリーディングだと思う。

何かあるな、と期待のハードルを上げておいてそれを下回る、みたいな展開が多かった。
一番わかりやすい例で言えば、さっきもちょっと出たが、柄本明がセルフ身元ロンダリングを匂わせ、観客に「じゃあこいつがもっと直接的に(ただの戸籍交換の仲介でなく)谷口の件に関係しているのか!?もしかして曾根崎って...?」などと色々思わせておいて、実際は別に特に何でもなく、妻夫木をイジってビビらせたいだけのお爺さんだったという展開とか。

話としての完成度は高いのだが、中途半端に伏線になりかけている要素があるせいで、「もう一人、それも既出のキーパーソンたちの中で身元ロンダリングをしている人がいるのでは!?」みたいな期待を抱かせてハードルを無駄に上げてしまった上で、そこまで衝撃的ではないラストで幕を閉じているので少し尻すぼみ感が出てしまっていて残念なように思えた。