あおき

ある男のあおきのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.4
「点」「蜜蜂と遠雷」の石川慶監督。メタファーに富みすぎ!完成度の高い映画だった。気になったらともかく観て欲しい。

何と言っても、冒頭のタイトル見せから心掴まれたーー。タイトルのフォントがゴシック?から明朝体にフェードチェンジしてゆくことで不穏さを立てながら「正体不明」「変貌」を予期させるの、導入として素晴らしすぎる。

ミステリー/エンタメとして純粋に面白いけど、その中で社会問題にも触れてゆく。でもそれだけに囚われず人間の内面に切り込んでくので、深みがありつつも誰でも楽しめる物語になってるのも好感度が高い。
一方で、社会問題の当事者がどう感じるかは少し気になってしまうところ(こういう映画に常についてくる課題ではあるね)。

「木」もモチーフに程よく作用していると思う。木を隠すなら森の中…とはよく言ったもので。主人公一家は各人に対応する木を決めて家族に見立てていたようだけど、「名も無き多数のなかのひとつ、しかし確かにそこに在る」ということを示しているようだった。
一方で城戸は飼ってる魚の名前が明確にわからないというシーンが「名前なんて結局分りゃしない」と(城戸と観客に)思わせる様になっている。
「絵」は才能的なもの=遺伝する要素のひとつかな?

「血縁という呪い」を色んなキャラクターを通して描くから辛すぎるけど、メインキャラクター全員に子供がいるのがしんどさを加速させる。愛おしい後にも呪いは引き継がれてしまうのか、いつかこの血を忌むようになるのか、、という未来への不安が拭いきれない。

冒頭とラストシーンで印象的に映された、バーの絵画はルネ・マグリットの「不許複製」。ラストシーンでそれを見つめる城戸の後ろ姿が綺麗に「顔のない男が3人続いている」──つまり谷口大佑の過去を継ぐ3人目になろうとする様が、もうね。凄すぎるって、、

あとラストで城戸が「名刺を切らしていて…」と言ったのも面白い。大佑と出会ったときの理恵さんも同じことを言っていて、『もしや理恵さんも何かあるんでは…!?』という不穏さを置いてく。
含みを持たせた不穏という意味では、じゃあ曽根崎は誰?とか、戸籍交換しようと思い立った決定的な原因/シーンとかまでは描き切らないのも良かった。

邦画の賞レースで無双気味だった理由がよくわかる出来でした。こういう邦画増えろ!!!!



でんでんの怒り演技がめっちゃ下手ですごい冷めてめっちゃマイナスポイントでした。あと余談だが真木よう子が出てきて笑っちゃった。
あおき

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