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ある男のkotaのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

自分を自分たらしめているもの。今日も明日も変わらぬ自分であるという連続性。目が覚めても同じ自分として、この世界の続きを生きているという感覚。
本来それは、安定や安心をもたらしてくれるはずなのだけれど、その連続性そのものが自分を苦しめ始めたら、まさに自分が自分であること自体が自分を苦しめるのなら、投げ出すこともできない生を、かといって抉り出すこともできない自分と一体である生を、どうやって生きていこうか。

自分ではない自分として生き直さざるを得なかった人生に、掻き立てられる疑問と、知るほどに滲み湧く共感と、密かに残る羨望。

他人として生き直すことで欲したのは、自分を自分たらしめている呪縛を拭い落とすこと。他人の何かを欲したのではなく、ただ自分を浄化したかった。そうして生き直したかった。
それでも結局、拭い去れない自分を自分の中に抱えながらも、新たな関係性の中で、新たな自分を、在りたい自分を生き直していく。

逃げられない、拭い去れない、吐出できない自分を内在させながらも、同時に、自分の中に自分を規定する本当の自分なんてものは存在せず、いろいろな他者との関係の中に立ち現れてくるいろいろな自分の姿そのものが自分自身なのだ。だから、在りたい自分が立ち現れてくる他者との温かい関係性を大切に生きられたら、それでいい。その関係性の中で、温かい生を生き直せたらいい。
そうやって生きられる、生き直せる、そういう世界で、社会で、あってほしい。

それは、自分にとっての救い。と同時に、自分もまた誰かの生を温める関係性の1つであれたらと、思った。

映像を観ながら原作が滲み出してくる。
柄本明さんがハマりすぎ。安藤サクラさんは何に出ても期待を裏切らなくてすごいなあ。
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