喜連川風連

さがすの喜連川風連のレビュー・感想・評価

さがす(2022年製作の映画)
4.5
「死にたいと言っていた人で本当に死にたがっていた人はいませんでした」

突如失踪した父。それを必死に探す娘。
カメラは主に手持ちで役者の動きをとらえる。

RPGゲームのように後ろをついていく絵が多い。お話も、娘の主観的な視点を通して、謎が明らかになっていく。

全体の構成としては物理的に父を探す前半部。精神的に父を探す後半部、の二部構成になっている。

足のショットや足から見上げるショットが多く、あたかもその足跡を辿ることを暗示しているようだった。

舞台は大阪・西成。その日を生きるのに精一杯な人のかたわらで、死にたい人を殺す殺人男。それを慈善事業だという。

殺人男に出会ってしまった父親。殺人男は障害を抱えて妻が生き続けることは幸せか?と問う。

妻は障害を抱えて生きているが、家族に迷惑をかけまいと死を望んでいる。

父親も一向にリハビリの進まない妻に対してどこか苦痛を感じている。

父親は偶然、妻が自死しようとする場面に出くわし、それを一度、傍観しようとするも、妻と目が合い、思い直す。この時の一瞬の間が本当に素晴らしい。

障害を抱えて、本人が死にたがっているのに、家族が生かしているのは不幸だと男は語り、殺害を父親に唆す。

ついに決行される殺人。殺人の瞬間、笑みを浮かべる男。苦しむ妻。

殺人男は慈善事業にかこつけた快楽殺人者だったのだ。

妻が死の瞬間、思い出のピンポン球を地面に落とす、それを踏みつける殺人男。ここもいい。父親の暗転が決定づけられた瞬間だ。

死にたいと願う多くの人が死の間際になって「生きたい」と願う。

死を実感するからこそ、逆説的に生きたいと思う。

生きている実感から遠ざかっているが故に、死にたがる人が多いのかもしれない。

とうとう妻は死ぬが、男は金をちらつかせ、父親を自分の殺人仕事に巻き込んでいく。実際の遺体の処理や自殺は男が行い、窓口を父親が行う。

それはあまりにも事務的で、人の死に加担している雰囲気がまるで無い。

アウシュビッツの収容所の所長が、上からの命令でガス室のボタンを何の感情もなしに、押し続けたのに似ている。

人間は命令さえあれば、残虐な行為ですら慣れてしまう。

だが、殺人は事件化し、殺人男は大量殺人犯として追われる身となる。父親はそれに慟哭する。そこまで父親に罪の意識は希薄だったのだ。

父親は殺人男を騙して、お金を総取りしようとある計画を実行する。殺人男は父親を仲間として信じきっており、計画に賛同する。

殺人男が殺されるラスト、遺体を入れていたと思われたクーラーボックスの中に、大量のビール缶が入っていた。殺人男は最期まで父親を仲間として信じていたのだ。

だが、父親は殺人男を殺し、懸賞金を手にして、卓球場を再興する。これでめでたしとはいかない。

もう一度、自殺幇助をして、お金を稼ごうとした父親に警察の追及の手が迫る。

序盤に、あれほど心が通い合っていた娘と父。

娘と父親の間に二度と、卓球のボールが行き交うことはない。
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