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さがすのsomaddesignのレビュー・感想・評価

さがす(2022年製作の映画)
5.0
じゃりン子チエ × 韓国ノワール

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大阪の下町で平穏に暮らす原田智と中学生の娘・楓。「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」。いつもの冗談だと思い、相手にしない楓。しかし、その翌朝、智は煙のように姿を消す。ひとり残された楓は孤独と不安を押し殺し、父をさがし始めるが、警察でも「大人の失踪は結末が決まっている」と相手にもされない。それでも必死に手掛かりを求めていくと、日雇い現場に父の名前があることを知る。「お父ちゃん!」だが、その声に振り向いたのはまったく知らない若い男だった。失意に打ちひしがれる中、無造作に貼られた「連続殺人犯」の指名手配チラシを見る楓。そこには日雇い現場で振り向いた若い男の顔写真があった。

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予備知識ゼロ。どうやら評判がいいので見に行った。
3月だけど2022年ベスト級。はちゃめちゃ面白かった!(゚∀゚)
が、軽々に人に薦めにくい。鑑賞後の後味の悪さはビターよりヌガーって感じ。いつまでも歯のうらに引っ付いて、ジトーッと苦い余韻が広がる。

最初こそじゃりン子チエみたいな世界観で、捨て置かれか中学少女が父親を探すうちに、父の人生や苦悩の足跡を辿る物語かと思いきや……。
特に2幕目以降の展開に驚きすぎて、予想を次々超えてくる。「あー、こういうオチか…」と予想しながら観てるのに、ずっと斜め上の出来事が連続してく。


ネタバレなしで感想を書くのが難しい。

視点が「さがす側/さがされる側」で二転三転するのも面白くて、ヒッチコックの「めまい」みたい。映画の構造としても似てるし、視点が変わると違った物語や思惑が浮かび上がってくるのもいい。


命の選択についての映画でもあって、たとえ終わりの見えない介護だとしても、最愛の人には生きていて欲しい。でもそれは自分のエゴかもしれないって逡巡。愛するが故に残酷な選択が脳裏をよぎる。愛情深い一方で、卑近で冷酷な人間のある側面にクローズアップしてく。

大好きな佐藤二朗の怪演光る。Twitterで毎日愛妻家っぷりを覗き見てるせいで、役への説得力がすごい。深い愛情と残酷な行動のギャップや、卑怯で猥雑な人間臭さを全部乗せした多面的なキャラクター。

伊藤蒼はなんだか映画で見るたびに酷い目に遭ってる。大人の勝手に振り回される役が多くて、今回こそはと幸せを願わずにいられない。今作は翻弄されるばかりじゃなくて、自分でグイグイ切り開いていく強さや状況に負けない逞しさの一方、思春期の脆く揺れ動く複雑さも併せ持ってて、なんとも多面的。佐藤二朗をして「演技の怪物」と言わしめた。薄幸のヒロインにして、今作のど真ん中にふさわしい主人公っぷりが良かった。

清水尋也のサイコパスな連続殺人鬼。水を得た魚の如く生き生きと演じていて、恐ろしいのに蠱惑的で、謎のカリスマ性がある。線の細さと対照的な肝の太さ。太々しい上に図々しい。人の神経を逆撫でする物言いとか、ひ○ゆき世代以降の身も蓋ない態度っぽくて嫌味ったらしくていい! 座間の事件の犯人をモチーフにしてるんだろうけど、詭弁と論理のすり替えで自分も他人も説得しちゃう恐ろしさ。自分で自分に酔ってるくせに、他人からの見え方に怯えてる卑屈さもいい。

謎の女性・ムクドリさんを演じてたのは森田望智。「全裸監督」で一躍名を挙げた俳優さんだけど、エンドロールで名前見るまで気づかないほどの豹変ぶり。人生に絶望してる人なのに、やたら元気で口も悪い。彼女が絶望に至る背景はハッキリ描かれないけど、どこにも居場所なく寄るべない不安定なかった人生が透けて見える存在感。

フード描写もとにかく印象的で、深夜テレビのショッピングの「おでん」と「お粥」。何気に伏線になってる。
マンダリンに皮ごとかぶりつく腹の減りっぷり、無頓着っぷり、サイコパス味。ハンバーグ弁当の食い方がすげえこと。貪り食う割に味わってる風がない。機械的に腹を満たしてる感。浜辺にカタツムリがいる不思議はさておき、食い姿とノー後片付けの姿を通じて、山内の性格描写を補完してるし、嫌悪感が増す作り。


難癖をつけるなら、山内のキャラクターがすごく特殊なある種の変態のそれでしかないことか。誰しもが心の奥底に秘めてるような、人間そのものの残酷さや業の深さを体現したキャラじゃなくて、突然変異のような扱いだったのがどうかと。
あと、楓がクラスメートの要求に応じて胸を見せるシーン。同意の上とはいえ、対価として性的消耗品にされてしまうのは性被害そのものだと思うので、若さ故の微笑ましいワンシーンとして笑ってる場合じゃない。そもそもあの二人の駆け引きが必要だったかすら危うい。


余談)
ロゴやポスターといったビジュアルデザインを担当した韓国のデザイン会社「Propaganda」。正体不明の順にピントが合ってないポスターや、彫刻刀で教室の机に残したようなタイトルロゴのデザインがイチイチ秀逸。物語の理解を深める補助線の役割すら果たしてる。カッチョえー!٩( ᐛ )و

18本目
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