ぼさー

さがすのぼさーのレビュー・感想・評価

さがす(2022年製作の映画)
4.5
社会問題と倫理観のグレーな部分への問題提起が秀逸だった。犯罪や脱法行為について、たとえ法をすり抜けたとしても「お天道様は見ている」という日本古来の宗教観に根差していてユニークであるし、堂々と海外にも紹介できる作品だと思った。

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娘が父をさがすという謎解きの土台の上に尊厳死や嘱託殺人や貧困が描かれる。

父に成りすました連続殺人犯の男については連続殺人犯ではなく正義の頼れる人として描くこともできたはずである。しかし、それをせず殺人犯として描いたのは尊厳死が快楽殺人に繋がるリスクを提示するためだろう。
さらに「当人が死を望んでいる」ということが尊厳死の拠り所のはずだが、連続殺人犯は妻の最期の様子を偽る描写で、拠り所の検証性の不十分さも描かれていた。

また、鑑賞者が主人公に思い入れするように仕向け犯罪行為を正当化するような演出にもなっている。おかげで最後に主人公が平穏な日常に戻ったように見えて僕も安堵を覚えた。しかし、最愛の娘は何もかもお見通し、すなわち「お天道様は見ているぞ」という筋書きにすることで改めて主人公の行為の善悪を問う形になっている。最後の最後まで安心できない作品であった。

後半では冗長のように感じるシーンもあったが善悪のバランスを保つための脚本や演出だと思うことができた。ラストの映画ならではの表現手法もよかった。

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以上は鑑賞後の冷静な考察である。
鑑賞中は胸を打つシーンが多かった。『岬の兄妹』で人生を自分事として生きている人たちが描かれたように、本作でも自分事として生に向き合い奮闘する姿に胸を打たれた。

俳優陣の演技、カメラワーク、音楽も素晴らしかった。次回作も楽しみである。
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