ニュースから流れてくる目を覆いたくなる残忍な事件は、時折、非現実的で遠いところで起こったフィクションに見えることがある。
あまりにも共感できず、現実とは乖離していて、自分の周りの風景と違うから、簡単に理解できないのだ。
しかし、本作『さがす』は、そんなフィクションのような事件を、逆にノンフィクションに誘う。
もしかしたら、こんなことがあるかもしれない。
想像以上に、魔の手は近くに存在して、ゆうゆうと半径1メートルに入り込んだりするかもしれない。
見終わったあとで、そんな恐ろしさを感じてしまった。
片山慎三監督作品は、いつもリアリティに寄り添っている。スクリーンを占有する主役の役者だけじゃない、背景となる脇役やエキストラまで、本物の人間の表情で構成されている。
主役の佐藤二朗さん以外は、ほとんど見たことのない役者さんばかり。色のついていない演技の上手い役者を起用していることがみてとれる。
そういえば、片山監督の名作、『岬の兄妹』も、同じように役者が生き生きしていた。
『岬の兄妹』は、重たい社会派テーマを描きながら、それでいてコミカルさを忘れず、ねっとりとした不快な重たさは感じさせない作品だった。
思わず感情移入してしまう、愛くるしい主人公。そんな物語を作る片山監督は天才だ。そして、本作『さがす』も同じだった。
ありえない深刻な場面でも、軽やかなコミカルさが見る人の心のバランスをとってくれる。実に魅力的な演出の数々だった。
本作は、片山監督の脚本だ。主役の佐藤二朗さんは、あてがきだという。
社会派のテーマを描きながらも、そこに息づくリアリティ溢れる人間を描いた作品である。
またもや、片山マジックと呼んでも良いくらいの、肉厚ドラマだった。