ノラネコの呑んで観るシネマ

有り、触れた、未来のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

有り、触れた、未来(2023年製作の映画)
4.5
10年前に大きな災害にみまわれた土地で、喪失の傷と共に生きる人々を描いた群像劇。
アル中の父との関係に悩み、自殺を考える女子中学生。
娘の結婚式に出たいと願う、末期癌の母。
創作の意味を自問自答する劇団員たち。
そして結婚を控えて、恋人の死を引きずる元バンドマンの花嫁。
原案は東日本大震災の語り部の本だし、ロケ地も東北だが、劇中ではどの震災と明言されていない。
特定の震災ではなく、災害で喪失を経験した全ての人々の物語ということだろう。
非常に登場人物が多いのだが、同じ街に住む全員に緩やかな関係性があるのが特徴。
10年経っても消えない傷を背負った人々が、苦悩しながらも自然に支え合い、徐々に立ち直ってゆく。
どんなに会いたくても亡くなった人は戻らないし、未来に触れることができるのは今有る命だけ。
登場人物の葛藤は、最終的に三つの芸術として昇華される。
真摯に作られた良作で、クライマックスの魂の叫びのカタルシスからの、作り手の想いとコミュニティの力を感じさせるエンディングには思わず落涙。
都内では上映館も上映回数も非常に少ないのが残念だが、上手い役者が大挙出演しているし、もっと注目されていい作品だと思う。
観て良かったです。