ぶみ

幻滅のぶみのレビュー・感想・評価

幻滅(2021年製作の映画)
3.5
このパリでは、悪質な人間ほど高い席に座る。

オノレ・ド・バルザックが上梓した『幻滅——メディア戦記』を、グザヴィエ・ジャノリ監督、脚本、バンジャマン・ヴォワザン主演により映像化したフランス製作のドラマ。
19世紀前半のフランスを舞台に、詩人として成功を夢見る青年が、華やかな世界に身を投じていく姿を描く。
原作は未読。
主人公となる青年リュシアンをヴォワザン、彼を愛する人妻ルイーズをセシル・ド・フランス、新聞記者ルストーをヴァンサン・ラコスト 、作家ナタンをグザヴィエ・ドラン、舞台女優コラリーをサロメ・ドゥワルスが演じているほか、ジャンヌ・バリバール、ジェラール・ドパルデュー、アンドレ・マルコン、ルイ=ド・ドゥ・ランクザン、デニッセ・アスピルクエタ、ジャン=フランソワ・ステヴナン等が登場。
物語は、田舎の青年リュシアンがルイーズと駆け落ちし、花の都パリに上京、華やかな世界で成功していくと同時に、詩人になるという当初の夢を忘れ、激動の生活を送る姿が描かれるのだが、都会の生活に憧れ上京し、流れに乗って成功するも本来の目的を忘れ、時代に翻弄されるというのは、いつの時代も変わらぬ光景であり、太田裕美の名曲『木綿のハンカチーフ』の歌詞を彷彿とさせるもの。
時代は19世紀前半なのだが、新聞社で行われているのは、今で言うフェイクニュースにステルスマーケティング、はたまた金による世論操作と、現代と何等変わらないというのも、驚きであるとともに、それだからこそ、時代背景関係なく観入ってしまう面白さがある。
個人的には、残念ながら本作が遺作となってしまったステヴナン演じるサンガリの、裏社会を牛耳る姿が魅力溢れるものであったことと、リュシアンの先輩となるラコスト演じるルストーが、私の職場の後輩に、性格もビジュアルもソックリだったのがツボ。
また、物語自体は、時折ナレーションが入り、回想録という形で進行するのだが、その語り部が誰なのかも注目ポイントであり、映画としてのエンタメ度を高めてくれている。
加えて、濃厚なベッドシーンや、全裸がしれっと登場するのもフランス映画らしいところ。
雨となったGW初日、コナンやマリオ、はたまたTOKYO MERと話題作がひしめき、混雑する映画館ロビーを横目に本作品をチョイスしたところ、私を含め、観客が僅か四人という快適な空間での鑑賞となったこともあり、約二時間半という長尺ながら、集中して観ることができ、時代と欲望、虚飾の世界に翻弄されてしまう主人公の姿に人間の持つ普遍的な弱さが投影されているとともに、再現度の高い当時の文化や衣装等も含め、良い映画を観たなという満足感を得られた一作。

名言の価値は駄作より高い。
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