ちろる

ロスト・ドーターのちろるのレビュー・感想・評価

ロスト・ドーター(2021年製作の映画)
3.7
今も、まだぽっかり穴が空いている。
深い罪悪感と、悲しみと、それに引き換えで与えられた幸せ。
「いつ戻ってくるの?」
娘たちのその質問がまるで聞こえないようなフリをして、私は悪魔になった。

ギリシャの海辺の家を借りて夏休みを1日で過ごすレイダはビーチにいたとある母娘に釘付けとなる。
彼女たちは、大家族でやってきていて、彼らがレイダの心をざわつかせる。

裏返せば腐っている美しい果物たち
ベッドに横たわる死にかけのセミ

ビアンカとマーサという2人の娘の子育てでピリついていた過去。
娘が7つと5つの頃、爆発寸前だった。

捨ててしまった人生。ずっと引きずりつつも、それでなきゃ生きられなかった。

女性目線で作られたリアルな女性の作品で、子育ての苦しみや苛立ちについてはリアルに描かれるものの、ニッチな観点から描かれている本作。映画でこういう視点で子育てを描くのって避けてこられた気がするから、ちょっと驚かされた。

やりたいように生きてきた中年女性レダの目の前に現れたニーナとその娘。
自分とは違うのに、昔の自分を見るような気がして後悔に苛まれていく。
多分レダはやりたいこと出来た自由な人生をずっと足枷をつけて生きてきたのだろう。

ニーナは輩チームにいる奔放なママに見えていて意外にもしっかりと子育てをしている。
鳴き声にノイローゼになりそうになってもその手を娘から離さない。
だからレダとは結局反対の母親だったわけで、分かり合えてた風のふたりもラストにバサッと分断される。
そしてまたレダは本当にひとりぼっちに。

主演のオリヴィア・コールマンの繊細な表情の演技がより一層このレダの孤独な世界を物語っている。
いやーさっきニッチと書いたけど、こういう複雑な世界観を映像化する初監督のマギー・ギレンホールに類い稀なる才能を感じる。
次はどんなのか、楽しみです。
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