みーちゃん

パワー・オブ・ザ・ドッグのみーちゃんのレビュー・感想・評価

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
4.0
原作(1967年)ではこのドラマの顛末や精神世界をどのように表現しているのか、読んでみたくなる作品だった。

大自然のロケーションの迫力と、ジョニー・グリーンウッドのギターの音色が相まって、次の瞬間に何が起きるか分からない不穏さと、深い抒情味&陰影が常に同居する、独特の雰囲気を醸し出していた。

時代考証(1920年代のモンタナ州)と、登場人物の個性を表現する衣裳も楽しく、キルスティン・ダンストの年齢に合ったドレスも、コディ・スミット=マクフィーの硬いデニムと真っ白なスニーカー(あれコンバースかな?)も印象的。ベネディクト・カンバーバッチが着用していた毛皮のチャップスも、スタイリッシュとは言えないリアルさだった(西部劇では珍しくないアイテムだけど毛皮のはあまり見ない気がする)。

◇ここから本編に触れます◇


全てが終わってみると、フィルの件も、ブロンコ・ヘンリーの存在も、なるほどそうだったかと、私は違和感なく理解し、受け入れる事が出来た。と同時に、描かれているのはあくまでも客観的な視点だから、真相や真意は誰にも分からない。

ただ、本当は繊細で教養もあるフィルが、荒くれた男らしさや名誉を重んじる牧畜業の営みの中で、日々の、或いは、ターニングポイントで味わってきたであろう心の葛藤や、長男と弟の関係、新しい家族を迎える心境などに、想いを馳せずにはいられない。そして、それは、決してフィルだけに特別に課せられた孤独や秘密、苦しみではなく、例えば、ジョージにとっては一生つき纏うコンプレックスかもしれない、ローズにはアルコールの問題かもしれない、そして、ピーターも…。

全員がそれぞれ、他者とは共有のしようがない、自分で背負うしかない何かしらの荷物を抱えていて、それが人生なのかもしれないと思えた。それらすべてを目撃し包み込む、雄大な山並みの景色に説得力があった。