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パワー・オブ・ザ・ドッグのYYamadaのレビュー・感想・評価

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
3.7
~脱「勧善懲悪」の「新西部劇」~
【ネオ・ウェスタンのススメ】
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021)

◆本作の舞台
 モンタナ州
◆連関する時代背景
・1909年 / 改定ホームステッド法にて、
 無料の土地を求めた数十万の農民が
 モンタナ州に入植
・1917年 / 第一次大戦に米国参戦
★1925年 / 本作の舞台
・1929年/ 世界大恐慌

〈本作の粗筋〉 eiga.comより抜粋
・大牧場主のフィル・バーバンクと弟ジョージの兄弟は、地元の未亡人ローズと出会う。ジョージはローズの心を慰め、やがて彼女と結婚して家に迎え入れる。
・そのことをよく思わないフィルは、2人やローズの連れ子のピーターに対して冷酷な仕打ちをする。しかし、そんなフィルの態度にも次第に変化が生じる…。

〈見処〉
①アメリカ西部の大牧場で巡る
 無慈悲で濃厚な人間ドラマ——
・『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、2021年に英・豪・米・加・ニュージーランド合作にて製作されたドラマ映画。
・本作は、アメリカ開拓時代末期を舞台とした1967年刊行の同名小説を原作に、『ピアノ・レッスン』(1993)にて女性初のカンヌ国際映画祭パルムドール受賞監督、ジェーン・カンピオンが12年ぶりに劇場用映画のメガホンを取った作品。
・主演のフィル役を『ドクター・ストレンジ』のベネディクト・カンバーバッチ。ローズ役は『スパイダーマン』のキルステン・ダンスト、ジョージ役には、本作の配役同様にダンストの実生活の夫であるジェシー・プレモンス。ピーター役は『モールス』の新鋭コディ・スミット=マクフィーが務め、無慈悲な牧場主と彼を取り巻く4人の緊迫したアンサンブルを描いている。
・本作は、1920年代のアメリカ・モンタナ州を舞台としているが、実際の撮影は、2020年1月からニュージーランドで開始。新型コロナ流行を受け、一時撮影が中断されたが、カンバーバッチ、ダンスト、プレモンスは、ロックダウン下も隔離免除が認められ、再開された撮影に参加した。
・本作は、Netflixで2021年12月1日から配信。また、賞レース要件を満たすため、それに先立つ11月19日から一部劇場で公開。2021年度のアカデミー作品賞有力候補と評価されており、既に2021年9月開催の第78回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(最優秀監督賞)、2022年1月開催のゴールデングローブ賞(ドラマ部門)では、作品賞、監督賞、助演男優賞(コディ・スミット=マクフィー)を獲得している。
・なお、本作タイトルは、聖書の詩篇「私の魂を剣から、私の命を犬の力から救い出して下さい」から採られているが、その意図は、鑑賞後に分かるはずだ。

②結び…本作の見処は?
◎: (実際はニュージーランド撮影であるが)アメリカ大草原を舞台とした静寂な叙情詩…と思いきや、緊張感溢れる心理戦を経て、終盤にはミステリー仕立ての作品であることに気付かされる。「実は緊密に設定されたスゴい作品」。単調な前半を我慢出来れば、再鑑賞したくなる稀有な作品。
○: 文明社会の拒絶、LGBT、女性格差…主演4名全員が何らかの不安感を持ち、誰が主役であるのか理解出来ないほど絶妙なバランスの人間関係を4人の名優が熱演。特に、カンバーバッチ⇔ダンスト、カンバーバッチ⇔スミット=マクフィーの人間関係に注目。
▲: 「西部劇」というよりも「サスペンス」ジャンルの本作であるが、ドラマチックな演出に慣れた鑑賞者には、その静寂な演出は、少し薄味かもしれない。
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