うりた

パワー・オブ・ザ・ドッグのうりたのネタバレレビュー・内容・結末

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

ものすごい映画を観てしまった…。

終始不穏な音楽に、多くを語らず淡々と進むシーン。話の展開が全く読めず一体どうなるのかと思いきや衝撃のラスト。かといって安っぽいサスペンスとはまた違う。息苦しいまでの重厚感。

最初、私少し話を勘違いしててネットで解説読んでようやく理解したのですがわかればわかるほど苦しくなるな…。

フィルが他人にしたことは到底許されることではない。
ただフィルもフィルで不幸な時代に生まれてしまったというか。
「男らしさ」を解体し始めている今の時代でなら、フィルの固定概念が破綻していることは容易に論じられる。
けれど当時はそんな風潮も無かったわけで。田舎なこともあって尚更外からの情報も入らないんでしょう。
そんな環境で「男らしさ」への憧れと「男性が好き」という自分の気持ちのバランスが上手く取れなかったことを考えると、フィルもまた時代の被害者だと思ってしまう。

その反面、ピーターはフィルよりも一回り?二回り?下の若い世代で、フィルとはモノの価値観が違う。
仮に彼もまたゲイだったとしても、フィルとは違う新しい時代のゲイなのだろう。
「お前が男らしい?そんな訳ない」みたいなことをフィルに言われるけれど、結局フィルはピーターに殺されてしまう。
フィルの中では強い/弱いを決めるのは「暴力」でしかなかったんだろうけど、ピーターはその賢い「頭脳」でフィルを制してしまった。
フィルがもしあの世で事実を知ったら、まだ「男なら正々堂々と殺せ!」とか「女々しくて卑怯だ!」とか叫ぶんだろか。

男らしさへの憧れは口にできても、男への愛は口にできないフィル。
男性至上主義の社会で女性嫌悪に走るフィルの心の奥底には、堂々と男性と付き合える女性への嫉妬や憎悪もあったのかもしれない。
うりた

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