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パワー・オブ・ザ・ドッグのKtoのレビュー・感想・評価

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
4.9
【ひとこと説明】
西部劇の形式に則りつつ、従来の西部劇的精神を根本から覆すような非常に新規性の高い心理劇

【感想と考察】
トーマス・サヴェージの同名原作を、ニュージーランド出身の女性映画監督 ジェーン・カンピオンが映画化したもの。

ベネディクト・カンバーバッチ演じるフィルが男性優位社会の嫌な面を全面的に具現化したような男で、特に前半の印象は最悪だった。これをみたトムホランド(MCUスパイダーマン)が「この映画をみてベネディクトを嫌いになった」と言ったのも無理はない…。
「どこのお嬢ちゃんが作った花だ?」「あの女の狙いはへなちょこ息子の学費だぞ」とかバンジョーでローズのピアノ練習の邪魔をしたりとか本当に執拗な嫌がらせをし続けてた。

ベネディクトカンバーバッチは役作りの一環で体臭をキツくするために風呂に入らなかったり、煙草吸いまくってニコチン中毒になってたらしい…恐るべき役者魂。(参考:https://theriver.jp/potg-cumberbatch-nicootine-poison/)

縄を結うシーンから、フィルとピーターの関係に変化が現れ始める。フィルの(前半では明かされなかった)同性愛や、”ブロンコ・ヘンリー”とのただならぬ関係が徐々に示唆されていく。マチズモな社会で上位階層に君臨するフィルだからこそ、自身に潜む反面的な本能に苛立ちと迷いを覚えていたのだろう…。

一方で弟のジョージは、当時にしては比較的リベラルな男性像の象徴で、ローズとのダンスシーンで涙を流すところは、兄や周囲の圧制に対して溜まっていた鬱憤が少し晴れたのかな。メイキング映像みたら、あのダンスシーンは原作になくて映画のオリジナルシーンらしい。確かに、現在 2022年でもああいった男性特有の同調圧力は世に蔓延っているし、ジョージのような男性がその中で息苦しさを感じる構図はあまり変わってないよなぁ思った。2021年公開の映画に挿入するには、非常に意義深いシーンだった…。

当時としてはかなりフェミニンな男性であるピーターは優れた科学的・合理的思考の持ち主で、医学に興味を示していたりして「ヒョロいインテリ」と揶揄されていたが、それが壮大な伏線になっていたとは…。
最後のフィルとの煙草のシーンはとても官能的。”心理サスペンス(スリラー)”から”フィルの個人的な恋愛映画”に転換する瞬間だった。そして、それを全て悟った、一枚上手のピーター…。音楽も相まってだんだんピーターがジョニーグリーンウッドに見えてきたよね。

従来はマチズモの象徴であった西部劇の形式を用いながら、それに拮抗する(点が多い)現代的な解釈を加えつつ、亡き原作者の意図を最大限尊重した傑作心理ドラマ(+恋愛)映画だった。

(超絶個人的感想)これを観た後にイミテーションゲーム観たんだけど、両作で同一の俳優 ベネディクトカンバーバッチが起用されたことに必然性を感じた。
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