アン

パワー・オブ・ザ・ドッグのアンのレビュー・感想・評価

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
3.8
最初の邂逅シーンで紙で作られた手作りのバラを燃やすところで物語はフィルとローズの物語ではなく、バラを作った張本人ピーターとの物語だと暗示されていました。

また物語の最初からすでに提示されていピーターの目的である「ただひとつ 母親を守ること」が、死んだ牛の皮を切り取るシーンまではフィルを殺すことだとは思いもしませんでした。
「男を強くするのは苦境と忍耐だ」とフィルが教えるのに対し、主人公ピーターは「障害物だ」と答えます。シンプルな返答が視聴者に否応なしにこのあとピーターがフィルを殺すことを突きつけました。

鼻で笑われていましたが お前は強すぎる との実父からの言葉はしたたかな手段を選ばない強さを持っていることを予言する言葉となりました。
フィルはマッチョな男性的なアイデンティティを体現したかのようなキャラクタでしたが、実のところはそれは憧れの男性への恋慕であり、本人の元の性格ではなかったのかもしれません。
見た目が痩せこけ病弱そうなピーターはマチョイズムからは遠い存在として登場をしましたが、実際には芯のある強さを持っていたことがわかります。

フィルとピーターが仲を深めていく(実際は打算もしくは好機が訪れた)流れだけが、物語の終盤近くまで疑問に思っていました。しかし、いつブロンコと知り合ったのかという会話の中で疑問も氷解しました。フィルがブロンコと知り合ったのは10代終わりの頃であり、そのときの出会いで傾奇者へと変わったことがわかりました。
かつての自分と同じ年頃の軟弱そうな青年、逃げ場のない青年であれば、懐柔できると考えたのが妥当でしょうか。

雰囲気はゼア・ウィル・ビー・ブラッドでしたが、単純な面白さであれば今作のほうが明快で複雑な考察が必要なくわかりやすいと感じました。
章立てたことに効果を感じられなかったのが残念ポイントでした。
アン

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